むかしがあったてや。あるろこへじさまとばさまがいて、ある日二人で座敷の掃除をしていたてや。ほうしるとでっけえ豆が一つ、コロコロところび出たてや。ばさまあ喜んで、「こらええかった、この豆いって食おう。」
と言うたてや。じさまあ、
「馬鹿言うんじゃねえ、この豆あ畑へまく、そうせゃ秋になれや一株とれる。」
そう言うたと。ばさまあ、
「いやそうじゃねい、秋まれなんか待っていらんねい。どうれも今いって食う。」
「分からんばさまらな。今たっだ一つらろも秋んなれや、いっぺいんなるねか。この豆あどうれも畑へまく。」
「いやいって食う。」
「いや、畑へまく。」
そういうて二人でいさけ(あらそい)したてやの。さっざせらこう(争い)たうもきまらねんなんが、
「へえ、山へ行がんけやならね。この続きぁ山からあがって来てからしるすけ。それまでこの豆あ、おおべっさま(えびすさま)へ上げておく。」
じさまそう言うて、でっけ豆を一升ますん中に入れて、神棚へ上げて山へ仕事に行ったてや。
さて後へ残ったばさまぁ、でっけい豆食いたくて食いたくてどうしょうもね。とうとう我慢しらんねで、おおべっさまからます下ろして、へんなかへ妙り鍋かけて、火どんどん焚いて、鍋ん中へ豆を入れてカラコロカラコロカラコロカラコロ妙って、カリカリッ、カリカリッと食うたら、なじょんかうまかったと。
そのうちにひいる(昼食)になってじさまが山から帰って来て、
「ばさまばさま、あの豆どうしたい。」
と聞いたんなんが、ばさま、
「あっあの豆か、さっきなコロコロところんで出て、そこのねずん穴へころびこんでしもうとう。」
そういてうっそ言うたと。じいさまたまげて、
「そらあもったいねいことした。どらどらじゃおが探して来らあ。」
そういうと袋一つたがいてねずん穴へ入って行ったと。ほうしっと向うの方で何だやらにぎやかな声がしるてんがね。何だろうと思うてそばへ寄ってみたら、ねずみが大勢集まって餅ついているがだと。
百んなっても二百んなっても
ニャーニャーの声はやらいやぁ
アーヨイショヨイショ
と唄を歌いながら餅ついているがだと。
じさまあ、こらあおもしい、一つかもうてくっどと思うてそう、
「ニヤーオン。」
て猫の鳴き声をまねしたてや。ほうしっとねずみぁたまげて、「チューチュー、ガヤガヤッ。」
といんな居ねなったてや。
「こらまあ可愛いそうなことしたぜい。」
そう思いながら臼んのこへ行ってみたら、臼ん中は餅じゃなくて銭がいっぺい入っていたったてんがの。
「こらあよかった。」
じさまその銭をいんな袋ん中へつめて、また穴ん中を歩んで行ったと、ほうしたらへえ晩方になってあたりが真っ暗んなってしもうたてんがね。
「さあおおごとら、日が暮れてしもうたが、どっか泊るろこぁねいろか。」
そう思うてあたり見まわしたら、向こうの方にチカンチカンと灯が見えるてんがね。
「あっよかった。あこへ家がある。一つ頼んで泊めてもろおう。」
そう思うてその家のろこまでやってきたら、何だやらその家の中が賑やからてんがね。
「はて、この家には何か取りこみがあるげらぜ。」
じさまあ障子に穴あけて覗いてみたてや。
「うわーっ。」
じさまあたまげてや、その家ん中にや赤鬼、青鬼、黄色い鬼らの黒い鬼が大勢集まって、
「ちょう!!」
「はん!!」
ていうてばくち打っているがだてんがの。じさまは、
「こらあ大変なろこへ来てしもうた。どうしたらいいろ。」
とせつなかった(つらかった)と。ほうしたら中の赤鬼が、「おいおい早くはった、はった。ぐずぐずぐずていると夜が明けるぞ。」
そう言うていんなをせかしたてんがね。
「ハアハア、鬼どもは夜が明ければ帰るがだな。」
じさまそう思ったんなんが、にゃへ行って箕一つめっけて来て、その箕をバタバタバタバタとたたいて、
「コケコッコー、夜が明けたーっ。」
と鶏のまねをしたてや。ほうしっと鬼どもぁたまげて、
「ほーら夜が明けた。逃げれ逃げれい。」
てがっで大騒ぎになり、銭をいんな置きぱっなしにしてどっかへ逃げて行ってしもうたてや。
じさまはまたその銭いんな集めて袋ん中へ入れて、ほんとうに夜が明けるがん待ってもと来た穴の道を帰って来たてや。
家じゃばさまがへんなかで火焚きながら、
「あのまあばかじさま、どこへ行ったがだろう。豆なんかおれが食うたがんも知らんでねずん穴へ豆さがしに行って、とうとうよっべな帰らんかった。どこほつきさいでいるがだやら、あの馬鹿じさま。」
ブツブツとじさまのざっぞう(悪口)しながら火焚いていると、けつの下がモクンモクンと持ち上がるてんがね。
「やーやーこらもっくらもちが出たげら。」
ばさま、にゃから横槌(つち)を持って来て、
「もっくらもちぁどこへ行った。そこらへ居たらかっつぶせ。」
そう言いながら横槌(づち)でズゴンズゴンと叩きつけたてや。
ほうしたらモクンモクンしるがんが、おさまったんなんが、縁板まくって見たら、何とじさまが銭いっぺい入った袋をかずいて死んでいたってや、ばさあ切ながって、
「じさまーかんしてくんねか、おれがいっちわるいがだすけ、かんべんしてくんねか。」
そう言うてオイオイオイオイ泣いたと。
これでいきがスポーンとさけた。
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