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「瞽女唄」を聴く会・始末記(一)

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竹下玲子と小林ハルとの共演

「瞽女唄」を聴く会・始末記(一)

 これから3回に渡って「日刊ナガオカ」のコラム「しなの川」に掲載された長岡市民劇場委員長・鈴木紘一の標記記事を再掲させて頂くが、この記事を読むには少し前知識が必要である。この記事は、昭和63年(1988年)に開催された、5月6日鈴木昭英講演会、5月13日若林一郎講演会、5月21日竹下玲子瞽女唄リサイタルの一連の長岡市民劇場主催事業の顛末をまとめたものだが、初めて鈴木紘一が竹下玲子の瞽女唄に感動する場面について若干補足しておく。
 長岡市民劇場のような会員制の演劇鑑賞団体は全国にたくさんあり、それらはいくつかのブロックに分かれ、各鑑賞団体はその地域のブロックに所属する。ちなみに長岡は関信越ブロックに所属していた。各鑑賞団体はそれぞれ独自に劇団を招いて演じてもらうこともできるが、かなり高額な費用になる。そこで各ブロックに所属する鑑賞団体は協議して特定の劇団と演目を選定し、それを統一例会と称して、ブロック全体を巡業させるのである。こうすると、劇団にとっては一つの演目でかなりまとまった収入を得ることができ、また鑑賞団体も劇団に出演料の割引や交通費の減額、ポスターチラシも割安で作成することができ、共にメリットがあるので、この方式が長い間採用されていた。よく対談などで、劇団俳優が地方巡業ばかりで大変だったなどと回顧することがあるが、多くはこのことを指す。小さな劇団だとさらに学校や公共施設などにも声をかけて全国を回るのである。
 さて、ここで書かれているのは、この関信越ブロックの会員相互の親睦を深めるために毎年催されるサマーフェスティバルでのことで、毎年幹事団体が輪番で廻って来る。この年は長岡が担当で、統一例会に決っていた有馬稲子・松山政路主演の水上勉原作『はなれ瞽女おりん』上演の機運を高め、会員拡大につなげようというねらいがあったのである。
 では、鈴木紘一の文章を読んでいただきたい。

「瞽女唄」を聴く会・始末記(一)(鈴木紘一)
 昨夏、関信越の演劇艦賞会の友好祭を苗場高原で行ない、その事務局を長岡市民劇場が担当した。役者さんなどもまじえ四百名規模のフェスティバルであった。水上勉さんの『はなれ瞽女おりん』を各市の鑑賞会で取りあげる意向もあって、主演の有馬稲子さん、演出の木村光一さん、水上勉さんからも参加してもらい、楽しい語らいをすることができた。
 このフェスティバルを企画していくなかで、私たちは竹下玲子という瞽女唄の後継者の存在を知った。しかし実行委員の多くが若かったせいもあり、芝居の「おりん」は熟知していても、本物の瞽女さや瞽女唄への関心はそれほどなかった。長岡が越後瞽女の一大本拠地であり、その存在が地域文化の伝承、情報の伝播(でんぱ)、人々に祝福をもたらすものとして、どれほどの重さがあったかなどの認識さえ、地方文化活動のにない手を白負しながら、目のゆき届かないことであった。
 だから、フェスティバルのイべントの一つとして竹下さんの「瞽女唄」を聞こうという企画は、『はなれ瞽女おりん』の気の利いたそえものとして、ギャラなどほとんどいらないとの理由からの実現であった。
 ところが、星空の高原の舞台に集まった私たちは、思わずホロ酔いのおのれを恥じるほどのショックを受けた。かがり火のなか、力強く、あるいは嫋々(じょうじょう)としたバチさばきにのって、竹下さんの瞽女唄は高く、低く、清涼の高原にひびいた。「葛の葉子別れ」、「新保広大寺」―。私は、これは大変なことなのだと思った。一連のイべントのなかで短時間しか仕切らなかったことを申しわけなく思い、認識の甘さを恥じた。
 竹下さんは無形文化財小林ハルさんの唯一の後継者であり、声楽家を志して音楽大学に学びながら瞽女唄に魅せられ、十年前にこの道に入り修業したという。実際の瞽女さの後継者など皆無の現在、この地方の秀れた文化芸能を何とか継承したいという熱い思いが、ビンビンと伝わってくる舞台。私は、ギャラなどいらないという竹下さんの「志」をその時思った。
 ところで今春、過疎地域の活性化を模索して、小国芸術村(この五月に芸術村会館、国際交流館、小国和紙館をオープン)を切りもりしている牧之の研究家・高橋実さん(私の高校の先輩)から案内があった。「竹下玲子」の瞽女唄を聞かないか、というのである。小国芸術村が企画して新潟県各地で開催したい、現代の瞽女宿の復活を、というのである。ギャラなどと大げさなことはなし、会場でザルをまわし喜捨をつのる、というのである。
 いいも悪いもない。昨夏の感動がある。私はその邂逅(かいこう)を喜んだ。市民劇場の委員会にはかってから、などという野暮天は抜き。即座にオーケーした。長岡市民劇場では地域文化の活性化ということで、例会(演劇鑑賞会)以外にもさまざまな催しを、市民に開かれたかたちで行なってきている。この企画もそれに沿うものとして、「長岡朗読を楽しむ会」と共催し、市、市教委の後援を得て、実行委員会が組まれることになった。(以下、次回)
(長岡市民劇場委員長)

「日刊ナガオカ」1988.6.12より

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