あったてんがの。むかしある山の中に小(ち)んこい村があったっての。その村にたった一人の産婆さんが住んでいたてんがの。その産婆さんは、一人暮しで毎日夜は夕飯食うと早々とねるがんだっての。その日も夕飯も食ったし風呂も入ったしへぇ寝よかなと火どこを休めていたっての。丁度そんどき
「今晩は今晩は。」
と、誰かが来たってんがの。産婆さんが
「はぁてな、誰だろう。村でボが生れそうな家なんかないがんだがな。」
と、思いながら玄関に出てみたら顔も知らない若い男がいて
「こんげ暗うなってから申し訳ないが、実は俺のカカが産気づいてなんぎがっているが、これからすぐに来てとり上げてくんなさい。」
と言うがだっての。産婆さは、
「いくら夜中だって商売だすけすぐ行ぐども、おまえさんはどこの人だの。」
と、聞いたら
「そんも、そこへこの間移ってきたばっかの者だが俺が案内するいの。」
と言うたってんがの。
産婆さんは急いで支度をしてついて行ったとの。そうしたら曲り曲り山の道をあいんで行って一軒のばっか背のひっくい小んこい家があって
「こゝが俺の家だいの。」
と、言うってんがの。何だかばっかせまい入り口から中へ入って行ったら奥の方でウンウンうなっている声がするんだんが
「よしよし、おれがきたすけ大丈夫だ。今、そんも生まいるで。」
なんか言うてるうちに子供が生れたっての。それが何だかすっごいモヤモヤした毛にくるまっているような子供だってんがの。
「さてさてボが生れたんが、お湯をわかしていたたかい。」
と、言うたらさっきの男が
「いいや、あとはおいらがするすけ産婆さんこれで帰ってくんなさい。これは今夜のお礼だが少ないかもしんねども取ってくんなさい。」
なんか言うて紙に包んだお金みとのをよこすんだんが、産婆さんはおかしいなあと思うたどもそれもろうて又男に送られて帰って来たっての。そうして家へ入ってランプをつけて見たらたまげたことに体中が毛だらけだっての。
「やだやだ、どうもおかしいと思うたらさっきの男は狐が化けてきたがんだな。あんげん入り口の小んこい家は、あれは狐の穴ぐらのがだっけかな。」
なんて独り言を言いながら着物の毛をほうらいたりして
「そうそう紙につつんでよこした金みたいのも、どうせあしたさげになれば木の葉になるかわからんな。」
と、そのまんまそこらに置いて寝たってんがの。だども次の日起きて見たらそれは木の葉にもならないでピッカピッカの小判だっけっての。狐は人間に化けて産婆さんをたらかしたども、お礼だけはちゃんと本物の小判をよこしたがだってんがの。
いちごポーンとさけた。
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