あったてんがの。むかし身上のいい旦那さまがあってそこへひとりの若いしょが使われていたっての。ほうして旦那様は馬を飼うていなさるてんがの。若いしょは、毎朝、めし前にかんのん堂という山へ馬の草刈りにいぐがらてんがの。かんのん堂の山に三助狐と権助狐が住んでいたてんがの。ある日の朝、いつものように若いしょがかんのん堂の山へ草刈りに行ったれば、狐どもが二匹で相談しているのを聞いたてんがの。
「ごん助どん、ごん助どん。なじだ。お前とおれが組んで金もうけをしようねいかい。あしたは栃尾の馬市だすけ、おれは馬に化けるし、お前は若いしょに化けておれを引っぱって行って馬市で売ってこいや。」
と、言うたとの。するとごん助狐が
「そうだな、そらあおもしい。」
「おら、馬になって買われたら夜中に逃げてくるすけお前は金を持ってすぐここへ帰ってきてくれ。山分けしようねか。」
と、言うて打合せしていたってんがの。
それを聞いていた若いしょは
「こらいいことを聞いたど。あしたさげは、おれが早く行って三助狐を引っぱって行ごう。」と、思うていたっての。ほうして次の朝はようにかんのん堂の山の三助きつねのどこへ行った若いしょは
「おう、三助どん、迎えに来たど。はよ馬になれや。」
と、言うたと。
「おうこ権助どん、ごうぎまた早いもんだな。お前またうまく若いしょに化けたねか。声から姿からほんに、旦那さまのどこの若いしょにそっくりだねか。ようしおらも上手に馬に化けるど。」
と、言うてくるんとひっくり返って立派な馬になったてんがの。若いしょはその馬を引っぱってパッカパッカと栃尾の馬市へ行って、馬のいっぺいこといるどこへ並べておいたてんがの。ほうしると、荷頃というどこの旦那さまがそこへ来ていらして、
「こらいい馬だ。いくらしる。」
「そうだの、まあ五両か六両かというどこだいの。」
と、若いしょが言うと旦那さまは、
「よし、そいじゃ五両にせばおれが買うこてや。」
と言わっしゃるってんがの。
「はい。そいでようござんす。」
と、五両で馬を売ったてんがの。若いしょはその五両の金を持ってうちへ帰ってきて
「おっかさま、おっかさま。あしたさげは狐どもが何とか言うて来るすけ、あずきめしにけんちん汁でもしてやってくんなさい。」
と、たのんでおいたってんがの。一方馬になって売られた三助ぎつねは夜なかになって、もとの狐になってコンコンカイカイと鳴いてかんのん堂の山にもどってきたてんがの。
「おうい権助どん、今きたれ。」
「おう、三助どん、おまえまあどこへ行ったがら。」
「なに、言うてるがだ。どこへ行ったがらなんて、そんげことがあるんだか。お前はきんな、おらを栃尾の馬市へ引っぱって行って売って金持って帰ったねかや。」と、言うたと
「いや、おらでねえ。お前をむかえに行ったどきはお前はへぇいなかったがら。」
「そうか、そうせば、あの旦那さまの若いしょがおいらの話を聞いておらを引っぱり出したがんだな。そうせばおらが荷頃の旦那さまに化けるすけ、お前はお供になれ。あの金をとり返しに行ごうや。」
と、言うて二匹の狐はだんなさまとお供になって山をおりて行ったっての。
「ごめんなさい。おれはここの若いしょから馬を買うた者で荷頃の旦那だが、その馬がよんべな逃げてしもうたすけ、その馬を返してもらいたい。馬がいなけっば金返してもらいたい。」
と、言うたってんがの。
「そうかの。まあ、上って朝飯でも食ってくんなさい。」
と、おっかさまが言われるんだんが狐どもは上って座ったっての。そうしたらあずきまんまやけんちん汁やら酒を出すやらのおおごっつおで腹いっぱいに食って狐どもは酒がまわってぐっすりと眠ってしもうたってんがの。ほうして朝日の出るころになったれば、でっこい尻尾を出しててもとの狐になってたってんがの。
「あっ、きつねがこんげどこへ出てきたな。」
と、言うてみんながぼったくったれば狐どもは
「あぁあ。人間さまにゃ勝たんね。」
と、言うておっかなおっかなやっとこせっとこかんかん堂の山へ逃げて帰ったてんがの。いちごポーンとさけた。
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