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富川蝶子さんの昔話「三の神のまじない」

「三の神のまじない」 mukasi


富川蝶子

三の神のまじない

富川 蝶子

 あったてんがの。むかし、山形の方にばっか稼ぎ手のあんにゃがかっかと二人で住んでいたってんがの。正直で稼ぎ手だども、あったらことに頭がちっとばか弱いがんだっての。いくら頭が弱いたって年頃になれば、世話してくれる人があって嫁が決ったっての。その嫁の家は三つばかはなれた村だってんがの。そうして、まだ祝言は上げてないがんだども、秋餅の一見(いちげん)によばれて行くことになったっての。兄(あ)んにゃは一見に招ばれて行くのなんてはじめてだすけ、どう言うてじゅんぎ(挨拶)したらいいろかな。と、心配していたっての。まあ、こんげん心配していたってもどうしようもねぇんが、かっかに聞いてみようやと思うて
「かっか、かっか、俺は一見によばれて行ったら何とじゅんぎ言うたらいいろかのし。」
 と、きいたっての。丁度かっかはそんどき小豆だの豆の種だの干して、ひょうたんに入れようとしていられたっての。
「ほんにほんに、おらこの兄(あ)んにゃは、三十も過ぎてよばいて行ぐじゅんぎも言うすぶ知らんろうか。おおごとだねか。」
 と、思うて、ごうやきまぎれに
「んなはまあいくつになったや。三十、四十になってべらぼうこいているな。」
 と、言うて持っていたひょうたんをひょっこんとつんだしたっての。
兄んにゃは、それを見て
「おおこと、一見に招ばいて行ぐどきはひょうたんがいるがんだな。」
 と、思うて、その日はかっかがこしろうてくれた土産を持って出しなに小屋からひょうたんを一つ出してそれも風呂敷につつんでたがいて、てくてくあいんで行ったっての。晩方になって嫁の家を聞き聞きやっと着いたんだんが
「おばんになりました。」
 と、言うたと。そうしたら嫁が奥から出てきて
「まあまあ、山形の兄んにゃさ。よう来てくんなした。待っていたどこだいの。はよう上ってくんなさい。」
 と、言うんだんが、兄んにゃは黙って寄つきの部屋へ上ってかっかの持たしてくいた土産を出してもう一つの風呂敷からひょうたんを出して
「んなは、まあいくつになったや、三十、四十になってベラボウこいているな。」
 と、言うてひょっこんとひょうたんをつんだしたってんがの。さあ嫁さはたまげて、「やだぁ、この人はまあどうへがんだろ。ばかみとのことをして。」と思うて見ていたら兄んにゃはまた、元通りにひょうたんを風呂敷につつんでいるってんがの。
丁度そこへ家の人が来て
「兄んにゃさが来らしたかや。まあ夕飯の座敷ごしらいが出来るまでに風呂へ入ってもろてくれいや。」
 と、言われるんだんが
「風呂場はこっちだいの。」
 と、案内して行ったっての。行きしなに台所を通ったらおんなごがドブロクをしぼっているってんがの。兄んにゃは酒のかすが大好きのがだっての。「ああ。あんげんしぼりたての酒のかす、なじょにかうまかろ。食いたいな。」と思いながら風呂へ入っていたっての。ちっとばかめいたら嫁が
「湯かげんはなじだろうかの。ぬるないかの。」
 と、聞きに来たっての。兄んにゃはへぇがまんが出来んで、
「はあ。丁度いい湯だいの。そいだが、ここの家は酒かすがあるかの。」
「はあ。酒のかすなんか今しぼったのがいっぱいことあるがの。」
「あんま、しようしだども手塩皿に一つ持って来てくんねかの。」
 と、言うんだんが、「風呂へ入っていて酒んかすなんかどうしるがんだろう。」と思いながら持ってきてやって、戸をちっとばかあけて見ていたっての。兄んにゃは、風呂のお湯を指につけては酒のかすを食っているってんがの。「やだねか。この人は風呂の湯をポッチャンポッチャンとつけては酒のかすを食っていらいるが、どうへがんだろ。」と思うていたどもまあ黙っていたっての。そうして夕飯がおいたら座敷へいい布団すいてもろてねたっての。だども兄んにゃは、いつもかっかから
「んなは、ねぞうが悪いど。枕をはずしてどこかへけっとばしているが気いつけれ。」
 と、言わいていることを思い出して、又枕はずすとわるいと思うて心配で寝いらんねがだと。「ああ、そうだそうだ枕を頭へいつけてねろや。」と思うてそこらへ紐っこがないかなと見るども何もねぇすけ、てまえのふんどしを取ってふんどしで枕を頭へしばりつけてねたっての。そうしていい気になってねぼうこえてしもうたってんがの。
朝飯ができたってがんにいっこう起きてこねいすけ嫁が起こしに行ったら、たまげたことにふんどしで枕を頭へしばりつけてその枕を頭のてっこうへちゃんちゃんと上げて、もうぐれ返ってねっているってんがの。嫁はそれを見て、「やだやだ。へぇ三度もおかしなことばっかしていらいる。こらあ黙ってなんていらんね。」と思って、ひょうたんのことや酒のかすのことなんかもみんな家の人に聞かしたってんがの。家の人もたまげて
「そんげん馬鹿みとのことをする人のどこへ嫁にやらんね。」
 と、仲人のどこへ行って
「この話はなかったものにしてくんなさい。」
 と、断ったっての。仲人が言うには
「何があったか知らんども片一方の話ばっかで決める訳にはいかん。俺があっちへ行って聞いてみるすけちっと待ってくれ。」
ってがんで兄んにゃの家へ行って「一見に招ばいて行って何して来た。どうじゅんぎ言うた。」
 、聞かいるんだんが兄んにゃは、ひょうたん持って行ったとか、酒かす風呂で食うたとか一から十までみんな聞かせたっての。かっかはへぇたまげてまっ青になってしもうたっての。仲人は、
「そうか。そうか。」と考えていたっけが
「いや、心配しんたっていい。俺がうまく話をつけてやる。安心してれ。」
 と、言うてこんだ嫁の家へ行って話したっての。
「おまえさん方は村が三つもはなれていれば知らんかったろうし、俺も黙っていてわるかったども、おらかたの村には三の神のまじないってのがあって一見の時はどうでもしんばん決りがあるがだがの。一にひょうたんだしの神というて、ひょうたんつんだしてじゅんぎ言わんばね。
 二にはカス食いの神で風呂へ入るとどうでも酒のかすをもろて食わんばね。三に枕上の神というて枕をふんどしで頭へしばりつけて寝て、朝げはそれを頭の上にのせておいて起こしに来られるまでは起きらんねだが、それを三つみんなしたと言うているが、そいでもだめだろうかの。」
 と、言うたっての。そうしたら嫁の家の人は、たまげたども
「そんげの決りがあるなんて知らんかった。なじょうも嫁にもろうてくんなさい。」
 と、いうことでめでたく祝言のはこびとなって、かっかは喜んでよろこんで、こんげうすばかみとの兄んにゃんどこへよう来てくれたもんだと嫁を大事にするし、兄んにゃは稼ぎてだし嫁もいい嫁だし、そんも赤子が生れるようになって一生幸せに暮したってこんだいの。一丁さかえた。


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