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富川蝶子さんの昔話「月見草の花嫁」

「月見草の花嫁」 mukasi


富川蝶子

月見草の花嫁

富川 蝶子

 あったてんがの。むかしあるどこに声のいい馬子がいたってんがの。そうして毎日朝げ、はようから起きて馬に食わせる草を刈りに行ってたってんがの。草を刈りしまにもいい声で唄をうとうていたってんがの。ある日のこといつものように朝げ早う起きて草を刈ってきて馬にくれながら
「今日も一日働いてくれいよ。」と言うて稼いでいたっての。次の日もまたいい声で唄をうたいながら草を刈ってきて馬にくれて夕方まで仕事をしてきて一人者だすけ
「さあて何もないし朝の残りもんで夕飯を食おう。」というて食うていたっての。そうしたら
「こんばんは、こんばんは。」誰かが来たようだってんがの。誰だろうな、いまじぶんと、玄関に出てみたらいとしげな娘っ子が立っていて
「道に迷うて家へ帰らんねが泊めてくんなさい。」
と、言うってんがの。馬子は
「そらあ困ったな。おら一人者だんだんが食う物もよけいにないし、布団だっていくらもない。気の毒だどもだめだなぁ。」
と、言うたってんがの。ほうしたら娘っ子は
「いいえ、食べる物もいりません。着る物もいりません。ただ家の中へ入れてもらえればそれでいいがだいの。」
と言うて馬子の家へ泊ったってんがの。
翌朝、馬子が起きたらへぇ娘っ子も起きていたっけってが、馬子が草刈りに行ってもどたら、まんまは焚けているしおつけは煮えているし洗濯はしてあるってんがの。
馬子は「こらあ、いいもんだなあ。」と思ってその娘を嫁にしたっての。そうして楽しく暮していたってんがの。
そうしてしばらくたったある日、馬子がいつものように早う起きて草を刈ってきて馬屋へひろげたり
「また今日も一日働いてくれいよ。」
と、馬に草をくれていたってんがの。その草の中にきれいな花が一本あるんだんが、仏様にあげることにしようと家の中へもって入ったっての。その花は月見草の花だってんがの。馬子が「オーイ、オーイ。」と嫁を呼ばるども返事がないってんがの。
「どこへ行ったろうなあ。」と台所の方へ行ってみたれば流しのどこへ嫁が倒れているってんがの。
「どうしたや。」と聞いたら嫁が座りなおして
「実は今日まで黙ってかくしていたども私は今おまえさんが手に持っていられる月見草の精のがんだいの。おまえさんがあんまりいい声で唄をうとうていられるんだんが、その声にさそわれてここへ来て嫁にしてもうて今日までたのしく暮させてもろてありがたかったいの。」
と、言うたと思うたら嫁の姿が見えなくなってしもうたってんがの。そうして手に持っていた月見草の花もいつしか消え見えなくなってしまったんてんがの。
これでいちごポーンとさけた。


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