あったてんがの。
むかし、あるどこに、あっちへ一軒ぽつん。こっちへ一軒ぽつんとぽつんぽつんとうちがあってさびしい小んこい村があったっての。その村にたった一軒あめやがあったての。その飴屋にじいちゃんとばあちゃんが二人で住んでいたってんがの。
ある日のこと、ばんがたになって、雨がポツポツ降ってきたっての。そのころはまだ電気もない街灯なんかもないんだんが雨でも降るとへえまっくらになってしもうてんがの。じちゃが
「ばあちゃ、ばあちゃ、こんげん雨の降ってまっくらになったんが、へえだれか飴なんか買いに来うばない。へえ戸じまりして休むか。」
なんかいうて玄(げん)かの戸をしめて鍵もかけて奥の部屋へ行っていたってんがの。テレビもないし、ラジオもないし、バイクや車もないむかし。ただ雨がボツボツ降る音ばっかでほんのしずかだってんがの。ちょうどそんどき、
「トントン。トントン。」とだれかが戸をたたく音がするってんがの。「はーて、こんげまっくらい、よーさるだれが来たろか。」と、じいちゃが言うとばあちゃんが
「こんげんどき、だれがこうばの。キツネかタヌキでねいかの。」
なんかいうていたらこんだはっきりと
「こんばんは、こんばんは。」と、女の人の声が聞こえたってんがない。
「だいだろうな。こんげなようさる」
と、じいちゃがローソクつけて戸をあけてみたら白いきもん着て、青い顔したやせた母ちゃんが立っていたっけが、
「こんげおそうなってきてわれいども飴を一文がどこ売ってくんなさい。」と、いうってんがない。じいちゃは何だかきびがわるども
「いや、いや、いくらおそいたってなじでもない。おらとこはアメダマもあるし水アメもあるがどっちがいかろうかの。
と、きいたっての。そしたらその母ちゃんは、
「水アメにしてくんなさい。」
と、いうってんがない。それでじいちゃん水アメを一文はかってびんにつめてやったっての。そうしたらその母ちゃんが何にもつつまないで、手にしっかり持ってきた一文の銭がこおりのようにばっか冷たいってんがの。じいちゃんは、やっぱりばっかきびがわるかったども、まあだまってまた戸じまりをして奥の部屋へ行ったらばあちゃんが
「だれだっけの。どこの人だっけの。」
と、聞くんだんが
「どっかの知らん母ちゃんが水アメを買いに来たがんだいや。」
と、きかせといたってんがの。そうしてまた、そのつぐの日、ばんに同じようにしてその母ちゃんが
「水アメ一文くんなさい」
と、いうて来たっての。そんげことが六日もつづいたってんがの。その六日目のばんにじいちゃんがあんまりふしぎだんだんが勇気を出してその母ちゃんのあとをつけて行ってみたってんがの。そうしたらフランフランとあいんで行ったと思ったら村のはずれの墓どこのどこでスーッと姿が見えのうなってしまったっての。じいちゃんは「はあて墓どこで見えなくなったなあ。」と思っていたら、ちっとばかめいたら、べとの中から「オギャアオギャア」と赤んぼうの鳴き声がきこえてきたってんがの。そうしたらそんもさっきの母ちゃんの声で
「おうおう泣くな泣くな、いまアメを買うてきたすけ、なめてくれや。今日はいいどもヘェかんおけに入れてもろた六文の銭は、ヘェのうなった。あしたのばんからどうしよう。」
泣く声がきこえるんだんがじいちゃんはたまげて
「これは、だまっていらんね。かくしてなんかいらんね。」
と、うちへとんできて、
「ばあちゃんや、この間からアメを買いに来た母ちゃんはあれはゆうれいがんだいや。おれが今日あとをつけて行ったら墓どこのとこで姿が見えんなって赤んぼうの泣く声がきこえるど。」
と、きかせたっての。それでばあちゃんもたまげて
「それはじいちゃん黙ってなんかいらんねでの。ああ、そういえばこないだ腹の大きい母ちゃんが死んで、そうれいがあったっけ。その母ちゃんにぼうがうまれたがだかしんねいの。早速あしたさげ、きかせに行かんばねの。
そういうて二人は夜のあけるのを待ってそのうちへ聞かせに行ったっての。そこのうちの人はたまげて早速墓どこを掘ってみたら、かんおけの中に死んだ母ちゃんのそばにまるまるとふとった男の子が水アメのビンをなめていたっけっての。そのうちの人は喜んで赤んぼうをうちへつれて行って育てたこての。
むかしは人が亡くなっても今のように立派なれいきゅう車もないし、やきばもない。かんおけの中に六文銭を入れてはかどこのべとの中へうめたのだってんがの。それで母ちゃんは死んだけどおなかの赤ちゃんは助かって一人で生れてきたから母ちゃんは可愛くてかわいくて夜になると水アメを買いにゆうれいになって出てきては子供を育てていたがんだってんがの。
これでいちごポーンとさけた。
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