昔々、あるどこへ欲深(よくふか)い長者様がおったと。村中は貧乏らてがんに長者ばっか千町もたっぼがあったと。ほうして今日は長者様の田植(たう)えらといえば、村中が大騒(さわ)ぎして遅(おそ)なってゆけば朝飯(あさめし)も食わしてもろんなかったと。ほうして、一人が一日にこっだけ植えねけや上げてもろんね、ということになっているがっで、休むこともできなかったと。
そこへその日の田植えの最中(さいちゅう)に山からさるが子を逆(さか)しまにぶって出てきたと。ほうしたら、一人の早乙女(さおとめ)が
「まあ、ねら見れ見れ。さるが子を逆しまにぶってら」
と叫ぶと、みんなの衆がわあっと立ちあがったんだんが、さるがたまげて子を投げ落としたと。ほうしたら子が親の腹へしがみついてそれがあんまりかわいくてみんなの衆が芝居でも見ているように
「おお、かわいいかわいい」
と苗をみんな放して見てたと。それを見ていた大旦那様がかんかんに怒って
「今日この仕事を終わらんうちは一人もあげね、まんまも食わせね」
といったと。ほうしるんだんが、提灯(ちょうちん)たがき(持って)ついて田植えをやっと終わらしたと。だどもどうしても終わらんかった衆はまんまも食わせらんね、一日のひりょう(日料)ももらえないし、泣いて帰る人もいたと。
ほうしてつぐのあさげ、大旦那様が
「今日こそ千町もある田んぼが真っ青で見事だろう」
と思って高台に登ってみたら一晩のうちに見渡す池になってしもうていたと。
欲をかけばこの通りになるこてやのう。いきがすぽーんとさけた。
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