とんと昔があったてや。爺さと婆さがいて子供がなかった。婆さが洗濯(せんたく)していたら、上の方から香箱(こうばこ)(お香を入れてある箱)が二つ流れて来た。婆さが、
「実のいった香箱はこっちへ来い。実のいらん香箱はあっちへいげ」
というと、一つの香箱が婆さの方へ来た。洗濯もんでくるんで、家へもってきて、へんなかで焙(あぶ)ったら、ポーンというて割れて、中にいごの子(犬の子)がはいっていた。爺さと婆さが、いごの子に、
「なあ、なんがいっち好きら」
ときくと、いごの子は、
「だんごが好きら、わんわん」
といったと。爺さと婆さは、
「そうらかい、そうらかい」
というて、だんご汁して、だんごはいんないごの子に食わして、てめえたちは、汁や茶ばっか飲んでいた。いごの子は、だんだんでっかなって、畑仕事に連(っ)れていった。ほうしたら、しょっべんこいたんだんが、そこを掘(ほ)ってみたら、金瓶(かねがめ)がふさって(うまって)いた。それを家へ持ってきて、家の中にガラガラとこぼしたら、それを隣(となり)の婆さが聞こえつけて、
「となりの爺さまは、金もうけしゃるがんに、おらうちの爺さは、のか火でへっぐり(きんたま)ばっか焙っている」
というて、かぎんこぶっけた。ほうしたら、爺さも、
「こうしちゃいらんね」
というがで、隣にいって、
「ここんしょは、なんで金儲(かねもう)けしやったい」
と聞いた。
ほうしたら、その家の爺さが、
「おらこは犬ころに団子(だんご)食わしたら、でっこなって、おらに金瓶のあるどこおせてくれたがんそう」
というんだんが
「じゃ、おらにもその犬かしてくれ」
というて、犬借りてきた。団子汁したろも、団子は食(か)せんで、汁ばっか飲ましていたがっだと。ほうして、犬が、いやがっているがんの、畑へ連れていった。ほうして
「ここほれわんわんと言え」
とむりやりいわせで、掘ってみたら、かわらけみてえの、きったねがんばっか出た。爺さはきもやいて、その犬殺してしもうた。隣の人がきて
「貸した犬、いくしてくれ」
というたうも、その爺さは、
「きったねがんばっか、べとの中から出てくるんだんが、きもがやけて(怒(おこ)って)殺してしもうた。めいたろこへ、松の木一本ええて(植えて)おいたすけ、そっでももっていげ」
というた。爺さは、その木、こやししてでっかして、太らしてから、その木でいすまいた(臼を作った)。
それを爺さと婆さが引くと、爺さの方から小粒が出て、婆さの方から小判がでた。隣の婆さは、それを見て、
「隣りの爺いたちは、金もうけしやるが、おらじいたちは、のか火でへっぐりばっかあぶっている」
というんだんが、爺さはまた
「となりへいって聞いてくらあ」
というて、隣りの家へいって金もうけのわけをきいたと。ほうしたら、その爺さが、
「犬の埋めたろこへ立っていた松の木で臼作ったら、こっげの金が出た」
というてきかした。ほうしるんだんが、爺さは、
「おんに、うす貸してくれ」
というで、臼借りてきで、隣りの爺さと婆さが臼を引いたと。ほうしたら
「婆さのほうは牛の糞(くそ)ががしゃがしゃ、爺さのほうは馬の糞ががしゃがしゃ」
というて出た。爺さはおこって、臼を割ってへん中にくべてしもうた。臼を貸した爺さが、
「臼返してくれ」
というて、取りにきたら、隣の爺さは、
「へん中へくべた。灰(はい)でももっていげ」
というんだんが、爺さは、灰をもろうてきた。夜が明けて、役人(やくにん)が駕籠(かご)に乗って、ぎしがたぎしがたお通りになった。爺さが、木の上で紙かごの中に灰をいれて待っていると、役人が、
「そこにいるのは、何者ぞ」
ときかっしゃるんだんが、
「日本一の花咲爺」
というて、灰をまくと、いろいろな花が見事に咲いた。役人は、喜んで
「下へ降りて来い、褒美(ほうび)をやる」
というて、褒美をいっぺいくれた。隣の爺さもそのまねして、灰をまいたら、役人の目の中へ入るやら、鼻の中へ入るやらして、ごうぎ怒って、爺さを刀で切った。ばさは、爺さがいっぺい褒美をもろうてくると思うて待っていたら、爺さは、血だらまっかになってくるがんだと。婆さは、それを見て
「金欄(きんらん)を着て来た」
というて喜んだろも、爺さは、そのうちに死んだと。
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