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新潟県の民話がいっぱい!「ばばの皮きた娘」

「ばばの皮きた娘」 mukasi


ばばの皮きた娘

小栗山 片桐ミヨ

 とんと昔があったげろ。ある村に金沢(かなざわ)の権三郎(ごんざぶろう)(旧家・山口権三郎)みてえの旦那様の家があったと。そこのお嬢(じょう)さんが、乳(ちぢ)が足(た)らんで、岩田みてえのどこへいる乳母(うば)をたのんだと。そのお嬢さんをぶってたな(池)のはたで遊んでいたら、たなの中で、へっびががえるを飲もうとしていたと。乳母はかわいげになったんだんが、
 「へっびや、そのがえる飲まんけや、このお嬢さんがでっかなったら嫁に行ぐが」
というたら、へっびはそのがえるを逃がしてやったと。
 お嬢さんが、十七、八になったどき、へっびがいい男になって嫁をもらいにきたと。その家じゃ、おごとがって
 「嫁になんか、くっだんね」
というたと。ほうしたら、へっびがごうぎ怒って、家中をからがいて、がっぎ(玄関)のどこへ、真っ赤の口あけていたと。家の衆がおおごとがって、娘に、
 「へっびのどこへ嫁にいぐか、どうしるや」
と聞いたと。娘は
 「親のいうことはなんでも聞くろも、頼みがある。針千本と、ふくべ一つくれてくんねか」
というんだんが、家じゃ大急ぎで娘のいうがんをそろえてやったと。へっびはいい男になって、娘の荷物をかついで、先になって歩(あえ)んでいったと。娘が、
 「お前さんの家は、どこらい」
と聞くと、男は、
 「まあちっと、むこうら」
というて、歩んでいったと。そのうちに黒姫(くろひめ)様の沢みてえのどこへ、でっけえ池があって、
 「これが俺の家ら」
というと、池の中から亀(かめ)や鯛(たい)が、ぼんまいおっつあ(軍配団扇(ぐんばいうちわ)?)を持って迎えに来たと。いんな中にはいってから、娘がもってきた、ふくべと針を投げたら、その池が血の海になったと。
 家に戻ってみると、家もなんもなくて、しんたくの家が一軒残っていただけだった。その家の衆に
ばばの皮きた娘  「おらの家はどうしたい」
と聞くと、
 「山のげ(土砂崩れ)の下になっていんな死んだ」
というだと。しんたくの家の衆と二人で、
 「こっげのとこへ住まんねすけ、江戸へ出ようねか」
と相談して、二人して江戸へ出かけていぐことにしたと。
 峠に来た時、しんたくのおっさが、
 「水がのみてえ」
というて下へ下りていったと。だいぶたっても、いっこう来ねんだんが、でっこい声で呼んでも返事がねえだと。娘が下へ下りていってみたら、おっさの片腕(かたうで)ばっか残っていたと。仕方がねんだんが、娘は一人で、沢通ったり峠越えたりして歩いていたと。ほうしたら、遠くの方にテカンテカンと灯りが見える。これは助かったと思ってその灯めがけてゆくと、家があって婆さまがいたと。
 「ひとばん、泊めてくらさい」
とたのんだと。
 「泊めてやってもいいろも、ここは鬼の家でおそくなって、鬼が帰ってくるんだんが、鬼の来ねえうちに、籠(かご)に入れて、てっじょうにあげるが、それでもいいか」
というんだんが、娘も承知して、天井にあげてもらったと。日が暮れて、おそくなって鬼が帰って来て、  「婆さま、人臭(くさ)いが、だれか泊らんかったかい」
と聞いたろも、婆さまは、
 「そっげのことはねえ」
としらばぐれていた。
 次のあさげ、鬼は、朝飯食って出かけていったと。鬼がいってから、婆さまは娘にまんまをどうろ食わしてから、
 「おれがばばの皮をくれるすけ、それをかぶって行けば、なんに会うてもおっかんねえ」
というて、ばばの皮をくれたと。山を越えたり、沢を通ったりして行くと、途中鬼が仕事していて、娘をめっけて、
 「おい、いい女が来たねか」
というて、そばへ寄ってくるろも、婆さまだったんだんが、
 「あきたな、婆さまか」
というて逃げていったと。
 娘は江戸に向けてずんずん歩いて行ぐと、途中で日が暮れてしまった。そこへごうぎな大尽様(だいじんさま)(大金持)の家があったんだんが、
 「こんばんは。おれを一晩とめてくんねか」
とたのんだと。その家の衆は、
 「おらこのうちの飯炊きにならんか。ここに入って御飯さえ炊いてもらえば、いいがだ」
とたのむんだんが、承知して、飯炊きに使うてもらうことになった。だいぶ日がたって、その村へ越後のきんどく芝居(しばい)という芝居がかかったと。そこの家じゃ、昼湯(ひるゆ)をたって家中して入り、煮しめのごっつおを持って出かけていったと。
 「ばさま、お前も出かけねかい」
とさそうてくれたろも、婆さまは、
 「家で留守居(るすい)しているすけ」
というて出かけなかった。ほうしたうも、二幕、三幕すぎたら、急に芝居が見たくなってばばの皮を脱いで、
 「たった一幕(ひとまく)でいいすけ、見てこう」
というて出かけ、木戸口(きどぐち)で見ていたと。一幕がおわると、すぐ家に帰って、留守居していたと。あとから家の衆が帰ってきて、夕飯食っているとき、
 「今日の芝居はおもしかったのう」
 「それにしても木戸口の娘はどこの娘だろう」
 「あっげないとしげ(かわいい)な娘見たことがねえ」
と話していたと。娘は、小屋の中で、ばばの皮脱いじゃ、灯(あか)りつけて本見ていたと。それを夜遊びから帰ってきたあんさが見つけて、きれいな娘だったんだんがたまげて、毎晩見いいったと。ほうしてあんさまが見染(みそ)めて、そこの家のあねさになったと。いきがすぽーんとさけた。


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