とんと昔があったげろ。峠越えた村へ、糸買いにいぐ爺さがいたと。その日も、村へいこうとして、途中の池の端(はた)までくると、小さいへっびが、かえるのもうとしているがっだと。爺さまは、知らんふりして過ぎようと思うて、ちいとあえぶと、そのかえるが、ギーギーッと悲しげの声出すだと。またいごうとしるとギーギーとなくんだんが、
「これは不思議(ふしぎ)のこともあるがんだ」
と思うて見ていると、爺さは、かえるが可愛げになってきたと。
ほうしたんだんが、爺さが、
「へっびへっび、おれは娘の子三人持ったが、なあがそのかえる助けてやれや、そのうちの一人をやろうじゃ」
というたと。ほうしたら、へっびがかえるをするするとゆるめたと。かえるは、池の中へとびこんで、ほうき(蕗(ふき))の葉の上へちゃんと坐って、こっちを見ているがだと。そこで爺さまは、安心して隣(となり)の村へいったと。
その日の夕さる、爺さまは、のし(屑糸)や糸をいっぺいこうて、峠のあたりへ来ると、一人の身なりのいい、若い男が、後ろからついて来るがっだと。
「今ごろこっげのどこへくるがんは、どこの衆らろ」
と思うたうも、だまって歩いて来たと。ほうしたら、後ろで
「爺さ、爺さ」
とよばるんだんが、爺さは後ろを見て
「なんか用事でもあるかい」
と聞くと、
「爺さ爺さ、おれは今日の朝げのへっびだが、おがせっかくいい餌(えさ)めっけたてがんに、おめえがあんまる頼(たの)むんだんが、かえる逃がしてやったすけ、今朝おめえがいうたように、娘を一人くれてくんねえか」
というがんだと。爺さも
「これはおごとしてしもうた」
と思うたろも、仕方がねんだんが
「娘にも話しるすけ、明日まで待ってくれや」
とへっびにたのむと、へっびも承知(しょうち)して別れたと。
爺さは、家へ来たろも、あんまる心配して、なんぎなって寝てしもうたと。
一番の姉娘(あねむすめ)が心配して
「爺さ爺さ、どっげのことがあったがだい」
と聞いたと。ほうしたら爺さは
「峠の池のへっびのどこへ嫁にいってくれや」
とたのんだと。姉娘は
「畜生(ちくしょう)でさえねえけや、どっげのどこへでもいぐすけ、そればっかしゃ かんべんしてくんねか」
というて、逃げていったと。ほうしたら二番目の姉娘が来て
「爺さ爺さ、どっげのことがあっただか、きかしてくんねか」
というんだんが、爺さは、
「なんもねえろも、峠の池のへっびのどこへ嫁にいってくれや」
とたのんだと。ほうしたら、その娘は、
「畜生でさえねえけや、どっげのどこへもいぐすけ、そればっかしゃかんべんしてくんねか」
というて逃げていったと。三番目の娘が来て、
「爺さ爺さ、どっげのことがあっただか、おれにきかしてくんねか」
というんだんが、爺さは、
「なんもなかったろも、峠の池のへっびのどこへ、嫁にいってくれや」
とたのんだと。ほうしたら、その娘が、
「爺さの身が立つなら、なじょうもおがいぐぜ」
というたんだんが、爺さも喜んで喜んで
「なあの好きのがん、なんでもこうてやるじゃ」
というたと。娘は、
「なんもいらんろも、四十八巻のお経本(きょうほん)そろえてくんねか」
というたと。爺さは、
「そっげのがんわけねえ」
というて、早速(さっそく)そろえてやったと。
次の日、娘は、そのお経本を持って、峠の池のへっびのどこへ行ったと。
ほうして池のはたへ来て、爺さのそろえてくれたお経本広げて読み出すがだと。ちいと読んじゃぶちゃり、ちいと読んじゃぶちゃりして四十八巻読んでいんなぶちゃったら、池の水がきれいに絶えてしもうたと。そのころ、あたりも暗くなって、どうしょうかと思うて、思案(しあん)していたら、むこうの山の中へ、蛍(ほたる)のあかりみてえのがんが、ちゃかん、ちゃかんと光っていたと。娘は、そのあかりをたよりたより山の中へ入っていってみたら、そこへ小屋があって、一人の婆さまがいたと。娘は、
「家へ帰ろうと思うたろも、暗くて道がわからんなったが、ここへ一晩とめてくんねか」
とたのむと、婆さまは、
「なじょうも、なじょうも」
というて、喜んで泊めてくれたと。次の朝げ、娘が、泊めてもろうた礼いうて出ろとすると、その婆さまが、
「実は、おれは、この前、どこの爺さから助けてもろうたかえるだが、お前さん、そっげのかっこうでいぐと、きっと他村の人にいじめられるすけ、おれがばばっけを貸(か)せるが、それを着ていぐがいいじゃ」
というと、ばばっけ着せてくれたと。それを着て村の中通ると、あんまるきったね婆さまだんだんが、村中の人が逃げていぐがだと。
三つ目の村で、日も暮れたんだんが、ごうぎな旦那様の家で、宿たのんだと。
「お願い申します」
というて、入っていぐと、出て来た女中は、あんまるきったなげな婆さまがいるんだんが、たまげたと。だろも、その家の主人は、なじょんか親切の人だったんだんが、前の木小屋(きごや)に泊めてくれたと。娘は、木小屋で、あんどんつけて、ばばっけを脱(ぬ)いで休んでいたと。ちょうどそのころ、家の若旦那が遊びから帰ってきたら、木小屋の方であかりがしているんだんが、覗(のぞ)いてみたら、きれいな女衆がいたと。その女衆が、あんまるきれいらったんだんが、次の日からなんぎなって、寝てしもうたと。そこの家じゃ、医者ら、薬らと大さぎしたろも、いっこうなおらんがだと。ほうしたら、医者が、
「この家の中で、一番気にいった人が水を飲ませやなおるがっだ」
といったんだすけ、家じゃ、旦那様がやる、奥様がやる、奥女中から下女中(しもじょちゅう)まて、いんなやったろも、ひとつたれものまんかったと。
「ほかに誰かまらいたかや」
と旦那様がいうと、女中が
「木小屋に泊っている、きったねえ婆さまがいるぜ」
というんだんが、女中がよびにいったと。娘はばばっけを脱いで、家の中へ入って来たんだんが、あんまるきれいらとって、いんながたまげたと。旦那様が、
「これに水やってくれや」
というんだんが、そばへ行って、水飲ましたら若旦那さまはうれしげに飲んだと。ほうして若旦那様の病気も治って、娘はその嫁になって幸福に暮らしたと。いちごさけもうした。
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