とんと昔があったげろ。大阪に鴻の池という旦那(だんな)様があったと。その家じゃ、他の旦那衆(しょ)集めていい法事したと。そこの家じゃ、いい法事したつもりで、家の番頭(ばんとう)によいつけて世間の評判(ひょうばん)を聞かさしたと。番頭は、そこらじゅうさわぐろも、なんの評判も聞かんなかったと。
あるどき、渡し舟の中に、牛をつれた牛方がいたと。川のちょうど真中(まんなか)ごろに、きたら、牛がしょんしょんと小便(しょんべん)したと。牛方は、岸にあがってから
「このばかやろう、大阪の鴻の池と同じことをしやがった」
というて、牛をごうぎしゃげつける(強く叩(たた)く)がだと。番頭はおかしなこという人だと思うてその牛方に
「お前さん、今牛が川の中で小便したら、鴻の池の法事と同じことしゃがるというたが、それは、いったい、どういうわけだ」
と聞いて見たと。ほうしたら、牛方が
「こねさ、鴻の池でいい法事したといばっているろも、てめえと同じ金持ばっか呼んで、こちとらみていのがん、誰でもよばんかった。この畜生(ちくしょう)も、丘の上で小便こけや、草木が吸うて、でっかなるろも、川の中でこけやだれも得するがんがねえ」
というて聞かしたと。番頭は、
「そうもあるか」
というて、家に来て、主人にこのことをいんな話したと。
主人も、
「そうか、そうか、それじゃひとつ、その牛方をよばってきてくれ」
とたのんだと。ほうして、番頭が、牛方をよばってくると、鴻の池の主人は、牛方に
「おめえさんは、まあいいこと聞かせてくれた。おれは、なんでも知らねんだんが、あっげのことしたが、ひとつ、おらこの番頭になってくんなさい。ほうせやおらこには、倉が七つあるが、そのうちおめえさんがいっち好きのがん一つくれるが」
と話したと。牛方も承知(しょうち)して、七つの倉をいんな見てから
「この倉がいっち好きら」
というたと。他の倉は、金銀宝が、どうろ入っているでがんに、その倉は、牛や馬の道具(どうぐ)ばっか入れておく倉だったと。牛方だんだんが、牛の道具の他(ほか)は、なんもいらんがっだと。
これでいきが、ぽーんとさけた。
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