とんと昔があったげろ。兄とおじ(弟)の鉄砲ぶちがいたと。ある日、兄とおじが、二人して鉄砲ぶちにいって、兄は、こっちの沢へ入る。おじは、むこうの沢へはいるして、別々の沢へ入っていったと。兄が沢へ入っていぐと、沢の奥に、きれいな娘が、苧績(おう)み桶(おけ)を前にして、苧を績んでいるがだと。
兄は
「こっげの山奥へ娘が苧なんか績んでいるはずがねえが、これは、きっと魔物(まもの)に違いない」
と思うて、娘をねろうて、鉄砲を一発ぶったと。ほうしたら娘がニヤッと笑うて
「いたでも、かいでもねえ。もう一ツぶってくれ。いたでもかいでもねえ。もう一ツぶってくれ」
というたと。またぶち、またぶちして、そのうちにたまが絶えてしもうたと。ほうしたら娘がそばへよって、ごうぎなかっこうして、よく見たら化けさるだったと。その化けさるは、兄の鉄砲ぶちを食ってしもうたと。
晩方(ばんがた)になっても、兄が来ねんだんがおじは、
「これはおかしい」
と思うて、次の朝げ、兄のいった沢へ入ってみたと。ほうしたら、きれいな娘が苧を績んでいるがだと。おじは、
「兄はこんにやられたがだな」
と思うて、たまつめてぶったと。ほうしたら、その娘が、
「おほほ、いたでもかいでもねえ。もう一ツぶってくれ」
というたと。おじは魔物が鉄砲ぶっても死まねんだんが、
「はて、これはどうしたもんだろう」
と考えたと。ほうしたら、魔物をみたら、その品物をぶてという先祖(せんぞ)からのいい伝えを思い出したと。
「これだな」
と思うて、おじは、その娘の持っている苧績み桶めがけてぶったと。ほうしたら、キーキーキーとでっけえ音がして娘の姿は消えたと。おじがそこまでいってみたら、血垂(ちた)らしたあとが続いていたと。それに伝うていってみたら、ごうぎのさるが死んでいたと。ほうして、そのそばに、兄の骨ばっかになったがんが、ころがっていたと。これていきがすぼーんとさけた。
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