とんと昔があったげろ。毎日峠を越える馬方があったと。ある日、峠を越えようとしているどこへ、えらいげな侍(さむらい)が出てきて、
「これこれ、馬方どこへ行ぐ」
と聞くんだんが
「柏崎(かしわざき)のてんやら堂までいきますが」
と答えるとお侍が、
「どうだ、おれをひとつのせないか」
とたのむんだんが、仕方なしに馬に乗したと。柏崎の近くへ来たんだんが、
「お侍様、柏崎がすぐでござんす」
というて、後ひょいと見たら、いつのこまにか侍がいねえがだと。
「金をもろうと思うたてがんに」
と、馬方はごうぎごうにやしたと。次の日も、また峠へかかると、きんなの侍が出てきて、
「これこれ、馬方おれをひとつのせないか」
というんだんが
「この侍は、きっと普通の人間じゃねいざ」
と思って
「お侍様、失礼でござんすが、この馬は、行儀(ぎょうぎ)が悪くて、とび出すこともありますんだんが、振(ふ)り落さんねえように縛(しば)ってやります」
というて、侍が
「いい、いい」
というがんもきかんで、むりやり馬の鞍(くら)にしっかりしばりつけてしもうたと。
柏崎のてんやら堂へついて馬方が
「さあ、どうぞお下りくだせい」
というろも、侍は下りらんねんだんが、ごちごちしているうちに、きつねになってしもうたと。
「こいつ、よくも人をだましやがったな」
というて、馬方は、きつねを殺してしもうたと。ほうして、村へ来てから、
「きつね殺したすけ、見いきてくれや」
と触(ふ)れてあいたと。村中の衆集めて、きつねの肉煮て、馬方が塩見(しおみ)してみたら、ばかげにうまかったんだんが
「これは人に食せらんね」
と思うて
「くゎいくゎい、くゎいくゎい」
ときつねのまねをしたと。ほうしたら、村の衆は、
「あっげの肉食おんなら、それこそきつねになってしもう」
というて、家へ逃げて帰ったと。あとから、かかが、
「おめえ、ほんにきつねになってしもうたがんかい」
と聞くと、馬方は、
「ばかこけ、こっげのうめえ肉を人にくっだんねすけ、きつねの真似(まね)したがだこてや」
というて、二人してその肉を食ったてや。これでいきがすぽーんときれた。
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