とんと昔があったっつお。爺(じ)さまと婆(ば)さまがいたてや。爺さまは婆さまに、
「今日は、日和(ひより)がいいすけ、山へかや刈(か)りにいってくるすけ、なあ家にいてこめついてくれや」
というて、山へかやかりにいったと。爺さまは、毎日弁当(べんとう)持って山へ行ぐろも、山のたぬきが来て、弁当盗んじゃ食っていたがだと。
その日もたぬきが爺さまのまんま食おうと思うても、いつものどこへ弁当がないんだんが、爺さまに知らんふりして、
「お前、今日は、なんの仕事しやるい」
と聞いたと。爺さまは、
「おらあ、今日はかや刈りに来たうも、弁当どうろ持ってきたすけ、なあがあいほ(手伝い)してくれれば半分くれるぜ」
というたら、たぬきが、
「じゃ、おがあいほしるすけ、半分くんねか」
というて、爺さまに負けねで、かやどうろ刈ったと。
「さあ、まんまにしようじゃ」
と爺さまがいうんだんが、たぬきは爺さまと、弁当どうろ食ったと。
まんま食ったら二人して、刈ったかやをかずいて家へへあがる(昼上がり)に帰ったと。爺さまは、心の中じゃ
「このたぬきがいつもおが弁当食っているがだ。今日くっさ(こそ)、つかめてたぬき汁にしてくれようじゃ」
と思うていただと。そこで爺さは、
「さあ、なあ先になっていってくれや」
というて、たぬきを先にしたと。ほうして爺さまは、
「家まで遠いみちだすけ、一服しょうざ」
というて、火打ちでカチンカチンと火をつけたと。ほうしたらたぬきが、
「爺さ爺さ、カチン、カチンという音はなんですい」
というたんだんが、爺さまは、
「あれは奥山のカチカチ鳥だ」
というがんだと。そのうちに、ぼうぼうと音がするんだんが、
「爺さ、爺さ、あのぼうぼうというのは、何ですい」
と聞くんだんが、爺さまは、
「あれは奥山のぼうぼう鳥だ」
というていたと。そのうちに峠(とうげ)へ行くころは、ぼんぼん燃えて来て、背中の毛いんな燃やして、ごうぎなやけどをしたと。爺さまは、
「さあさあ、いっときかや降ろしたがいい、おが薬をつけてくれるすけ」
というて、たぬきになんばんの粉のびりびりするがんを塗(ぬ)ってくれたと。たぬきは苦しくて、苦しくて息がとまるほどだったと。そっでもまだ死まねんだんが、爺さまは、
「こっでもまだ死まねえ。こらあかやどこの騒ぎじゃだめら」
と思うて、四つ足縛(しば)って家へ連れていったと。
「婆さま、今来たぞ。山のたぬきつかめて、庭の枝にいつけておくすけ、縄(なわ)ふるくなや」
というて、木にさげておいたと。婆さまは、爺さまに、へえる食わして山へやったと。
爺さまが山へ着いた頃、家じゃ、たぬきが
「婆さま、苦しくて苦しくてどうしょうもねすけ、この縄ふるえて(解いて)くっねか」
とたのむがだと。だろも婆さまは、
「爺さまにおこられっとおごとだすけ、ふるかんねえ」
というて、こめ搗(つ)きしていたと。そのうちに、たぬきは、てめえであたけたって(自分で激しく動いて)、縄ふるいて、
「婆さま、なんで俺があっげにたのむがんにふるいてくんねがだ」
というて、婆さまの持っていた杵(きね)をしったくって取って、婆さまの頭を、こっきん、こっきんとはたきたって、殺してしもうたと。その骨をどうしたらよかろうと思うて、ながしの縁の下へ隠しておいたと。婆さまののがした着物は、いんな(みんな)自分で着て、婆さまのかっこうでこめ搗いたと。
そこへ爺さまが来て、
「婆さま、今来たぞ」
というたら、婆さまは、
「ごくろうであったのう」
というだろも、その声がいつもの声と違うがだと。
「これはおかしい」
と爺さまが、庭の枝を見だら、たぬきがいねがだと。爺さまは、
「今の声は、婆さまの声色(こわいろ)だねか」
と思うて、家の中へはいってみたら、たぬきが
「爺さま、おれは婆さ食った。流しの下の骨みろ」
というて、家から出へ逃げていったと。爺さまが流しの下を見たら、そこに婆さまの骨だけあったと。爺さまは、くやしくておいおい泣いていたと。
そこへうさぎが来て、
「爺さ、爺さ、おめえ、なんの泣きやるい」
と聞いたと。爺さは、
「山のたぬきが、毎日おが山へ持っていく弁当食うんだんが、つかめてたぬき汁にしようと枝に縛っておいたら、縄ふるいて、おらこの婆さを食ってしもうたんだんが、泣いているがっだ」
というたと。うさぎは、
「じぁ、いっこうおが仇(かたき)をうってくれるすけ、泣きやるな」
というたと。爺さは、
「ありがてえ、ありがてえ」
と涙流したと。
「爺さま、おめえ木があったろい。木切らっしゃい。そっで舟作れ、おれにいい考えがあるすけ」
ほうして、爺さまは、その木切って、舟作る。うさぎは、とうど(手伝い)に来てくれたと。杉の舟一隻(せき)こしょて
「こっだ、べと舟作るすけ、あいほしてくんねか」
と爺さまにいうて、うさぎはべと舟作ったと。
「爺さま、こっで二隻の舟ができあがったが、べと舟はたぬきののる舟だし、杉舟は、お前とおれが乗る舟らぜ」
うさぎは、こういうて、たぬきに
「日和(ひより)がいいすけ、海へ遊びにいこうねか」
とさそったら、たぬきも喜んで一緒(いっしょ)にいぐがんになったと。ほうして、初めは、いんなが杉舟にのっていたろも、沖へ出てから、たぬきをべと舟にのして、
「杉舟はぷいっとせい、べと舟はかっくらせ」
と唄って、かい棒(ぼう)でこきんこきんとべと舟をたたきつけたと。ほうしたら、べと舟は、がぼがぼともぐってしもうて、たぬきはせつながったろも、下の方へぐんぐん流れていってしもうたと。これでいきがすぽーんとさけた。
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