とんと昔があったげろ。たぬきとうさぎがいたと。あるどき、うさぎが、たぬきに
「ぼよ出し(柴(しば)運び)しるすけ、あいほ(手伝い)に来てくれや」
とたのんだと。たぬきは喜んで、
「あい、あい」
と承知(しょうち)したと。二人して、ぼよかずいて、坂をおりる時、うさぎが、
「おらあ、足がおそいすけ、なあ先歩(え)んでくれや」
いうて、たぬきを前にしてあえばしたと。たぬきが前になってあえんでいると、後の方で、かちん、かちんと音がしるがんだと。
「うさぎどん、うさぎどん、かちんかちん鳴っているありゃなんだい」
と聞くんだんが、うさぎは、
「あれは、かちかちやまのかちかち鳥ら」
というて知(し)らんふりしていたと。またちいとばかめる(過ぎる)と、ぼうぼうと鳴る音がしるんだんが、たぬきが
「うさぎどん、うさぎどん、ぼうぼう鳴っているありゃなんだい」
と聞くんだんが、うさぎは
「あれはぼうぼう山のぼうぼう鳥だ」
というて知らんふりしていたと。そのうちに、背中(せなか)が、あっつうなってきて、たぬきは、ごうぎなやけどしてしもうたと。うさぎは知らんこまにどっかへ逃げていってしもうたと。たぬきは
「うさぎどんのために、とんだめにおうた」
とばかになってうさぎを捜(さが)したと。ほうしたら、竹やぶの中に、竹切っているうさぎがいるんだんが、たぬきが
「うさぎどん、うさぎどん、おれはなあのために、ごうぎなやけどして、えらいめにおうた」
というたと。ほうしたろも、うさぎは、
「竹やぶのうさぎは竹やぶのうさぎ、おらそっげのこと、知ったこんだねえ」
というがだと。たぬきは、仕方ねんだんが
「お前は、こっげの竹やぶの中で、竹なんか切って、なんのしるがだい」
と聞いてみたと。うさぎは、
「竹でけつを縫(ぬ)うて、あっぱの出ないようにするがんだ。そうせや、まんまもちいとしか食(くわ)んでいいねか」
というだんが、たぬきは、これはいいこと聞いたと思うて、
「だけや、俺(おれ)にもそうしてくれや」
というて、うさぎにたのんで、けつを縫うてもろうたと。ほうして、ちいとばかめて、あっぱが出てろも、出ねで、苦しくてどうしょうもねんだんが、うさぎに聞こうと思うて、かけずり回って捜したと。ほうしると、たれ(蓼(たで))原でうさぎがたれをつんでいたと。たぬきが、
「うさぎどん、うさぎどん、俺は、なあのために、けつぬうてもろうたら苦しくて、どうしよもねえ」
というと、うさぎは、
「竹やぶのうさぎは竹やぶのうさぎ、たれ原のうさぎは、たれ原のうさぎ、おらそっげのこと知らねえ」
というんだんが、たぬきは、それはそうろうと思うて、
「お前さん、たれなんかつんで、なんのしるがだい」
と聞いてみたと。ほうしたらうさぎは、
「たれはやけどの薬だこてや」
というがだと。こらあいいこと聞いたと思うて、たぬきは、
「だけや、俺の背中のやけどのどこへ、つけてくんねか」
とたのむがだと。うさぎは、
「これはどうろ(たくさん)つけねと、きかんがだ」
というて、やけどのどこへ、どうろつけたと。ほうしたら、しょんでしょんで(しみてしみて)、どうしょうもなかったと。
「あのうっそこきうさぎめ、どこへ行きぁがった」
とたぬきはばかになって捜したと。
ほうしたら、高い木のてっじょうで、うさぎが木の枝おろしていたと。たぬきは
「うさぎどん、うさぎどん、なあのために、やけどのどこへたれつけてもろうたら、しょんでしょんでえらいめにおうた」
と怒っていうたら、うさぎは、
「たれ原のうさぎはたれ原のうさぎ、杉原(すぎはら)のうさぎは、杉原のうさぎ、おら、あっげんがん知らね」
というて、かーん、かーんと木を切っているがだと。たぬきは、それもそうろうと思うて
「お前さん、木なんか切ってなにしるがだい」
と聞いてみたと。うさぎは、
「舟でも作って魚釣(いおつ)りへでもいこうかと思うて」
というたと。たぬきも、
「だけや、おれもつれていってくんねか」
とたのんだと。
うさぎは杉の木の舟を作り、たぬきにやべとの舟をつくってやって、海へ魚釣りに出かけたと。そのうちに、舟が沖ヘ出たころになると、
「杉舟(すぎぶね)はぷいっとせい、ちち舟はかっくらせ。杉舟はぷいっとせい、ちち舟はかっくらせ」
と歌うて、かい棒(ぼう)でたぬきののっていたべと舟をぱしん、ぱしんとはたくんだんが、べと舟はひびがはいって、そこから水が入ってきて、沈んでしもうて、たぬきも死んでしもうたと。
その近くに、家がたっていたろも、ちょうど彼岸(ひがん)の中日(ちゅうにち)だったんだすけ、親どんはお寺まいりにいって、家は、子供ばっかだったと。その家へ、うさぎがはいってきて、いうたと。
「ねら、とと煮(に)えてくれるすけ、鍋(なべ)貸せや」
ほうしたら、子供がいうたと。
「うちの衆が、留守(るす)の間、だっでも家の中へ入れんなというたすけ、いっだんねえ」
だあろも、あんまうさぎがいうんだんが、しめいには、戸あけてうさぎを中へ入れたと。うさぎは、なべ借りて、ごっつぉして、食わし、歌を歌うて遊んだと。そのうちに、親ろんがもどってきて、子供に
「ねら、るすのうちに、だっでもこねかったかや」
と聞くろも、子供は、おこられるとおごっだんだんが、
「だっでもこねえぜ」
とうっそいうたと。
「うっそこけ、仏様へたぬきのきんたまがあがってるねか」
と親がいうんだんが、子供もだまっていらんねなって
「白い着物着た人が来たろも、だまっていれというんだんが、黙っていたがんだぜ」
というたと。
「そらろう。ほうして、その人どこへいったや」
と聞くと、子供は、
「後にいって寝ているぜ」
というたと。
「はや、鉈(なた)もってこいや」
と親ろんがいうたら、上の子はほうき持っていったと。
「なたもってこいてえ」
とまた親ろんがいうと、二番目の子は槌(つち)もっていぐがだと。やっと三番目の子が鉈もっていったんだんが、その鉈で、寝ているうさぎのしっぽ切ったと。
そっで、今でもうさぎのしっぽは短いがんだと。これでいきがすぽーんと切れた。
■「越後の昔話 名人選」CD(全11枚)の頒布について■ |
|
越後の昔話名人選CD |
平成6年以来「語りつくし越後の昔話」と題して、瞽女唄ネットワークは新潟県下各地にお住いの名人級の語り手による昔話を聞く会を開催してきましたが、その録音テープを元に再編集したCDを販売しております。 優れた語り手による昔話は聞いて楽しいばかりでなく、民俗学的にも貴重な資料となっております。活字でしか接することが難しくなってきた昔話を、語り伝えられた土地の言葉でたっぷりとご堪能ください。 越後の昔話名人選CDの内容・お申込み方法は、こちらから |
この越後の昔話に関するご感想や類似した昔話をご記憶の方は、「お力添えのメール」で是非お聞かせください。