とんと昔があったげろ。爺(じ)さが山の畑であわの草取りしていたろも、あんまりたいそうだんだんが(疲れたので)、
「だれか、この草取ってくれるがんがいたら、娘の子三人持ったが、だれか一人でも嫁(よめ)にくれようが」
と一人言(ひとりごと)いうたと。ほうしると、山のさるが出て来て
「爺さ爺さ、お前今なんの言うたい」
と聞くがっだと。
「おら、なんもいわんじゃ」
爺さがいうても、さるは、
「お前、なんかいうたねか」
というて、きかねんだんが、爺さは
「あんまるあわの草取りがたいそうだんだんが、このあわの草取ってくれるもんがいたら娘の子三人持ったが、一人嫁にくれてもよいがというたがんだ」
いうたと。ほうしたらさるが
「じゃ、おがこの草取るすけ、おれに娘一人くんねか」
というて、ちゃがちゃがとあわの草取ってしもうたと。ほうして
「三日したら、おが迎えにいぐすけ」
というて、その日は別れたと。
爺さは、これはおおごとのこときめてしもうたと思うて、家に来てもあんばいが悪くなって寝てしもうたと。家中の者が心配して、一番上の姉娘(あねむすめ)が、爺さのどこへ来て、
「爺さ爺さ、あんばいはどうらい、湯でも茶でもやろうかい」
と聞いたんだんが、爺さは、
「湯も茶もいらんが、山のさるのどこへ嫁に行ってくれや」
とたのんだと。姉娘は、
「この馬鹿(ばか)爺さ、糞(くそ)爺さ、だれが山のさるのどこへなんか嫁に行がれるんだな」
と怒って、逃げていってしもうたと。二番目の姉娘が来て、
「爺さ、爺さ、あんばいはどうらい。湯でも茶でもやろうかい」
ときいたと。爺さは
「湯も茶もいらんが、山のさるのどこへ嫁にいってくれや」
と頼んだと。二番目の娘も
「この馬鹿爺さ、糞爺さ。だがさるのどこへなんか嫁にいがれるんだな」
と怒って、逃げていってしもうたと。そのうち、三番目の娘が来て、
「爺さ爺さ、あんばいはどうらい。湯でも茶でもやろうかい」
と聞いたと。爺さまは、
「湯も茶もいらんが、山のさるのどこへ嫁に行ってくれや」
とたのんだと。三番目の娘は、
「爺さのいうことだけや、なじょうもおが行ぐぜ」
承知(しょうち)してくれたと。爺さまは、喜んで、嫁入(よめい)りの支度(したく)をいんなしてくれたと。三日めて、さるが迎えに来たんだんが、娘はさるのどこへ嫁にいったと。
嫁にいった娘が、一泊りに家へ戻るどきになったと。さるが、
「里の爺さは、なんがいっち好きら」
と聞くんだんが、嫁は、
「おらこの爺さは、餅(もち)がいっち好きら」
というたと。
「じゃ餅ついていこう、重箱(じゅうばこ)に入れていごうか」
とさるが聞くと、
「おらこの爺さは、重箱臭(くさ)いというてだめら」
「じゃ、わっぱの中へいれていこうか」
「わっぱは、わっぱ臭くてだめら。おらこの爺さは、臼(うす)の中へ入れて搗(つ)き搗きした餅がいっち好きら」
と嫁がいうんだすけ、さるが臼かずいて、嫁が後から、つきつきして、ついていったと。
ちょうど川のはたへ来ると、そこへきれいな桜(さくら)の花が咲いていたと。それを見て嫁が
「あこへきれいな桜が咲いているざい。あの一枝(えだ)とっていったら、爺さもどっげ喜ぶやら」
というと、さるが
「じゃおが取ってきてやらあ」
というて、かずいていた臼をおろそうとしたと。嫁がそれを見て、
「ごっげんどこへ、臼おろせや、おらこの爺さが、べとくさくてやあがるすけ、かずいたまま、木に上ってくんねか」
というんだんが、仕方なしにさるは、臼かずいたまま木にのぼったと。木の上で
「この枝でいいか」
とさるが聞くと、
「もっとてっじょう(上)の枝がきれらねか」
というがだと。また上へのぼって
「この枝でいいか」
と聞くと、
「もっとてっじょうの枝がきれいらねか」
というんだんが、また上へのぼると、さるは、川の中へぼちゃーんと落ってしもうたと。ほうして、下の方へ流れしまに、
「さるはさる川へ流れども、命はおしくないろも、後へ残れる嫁女(よめじょ)がこいし、こいし」
と唄うていったと。これでいきがすぽーんときれた。
■「越後の昔話 名人選」CD(全11枚)の頒布について■ |
|
越後の昔話名人選CD |
平成6年以来「語りつくし越後の昔話」と題して、瞽女唄ネットワークは新潟県下各地にお住いの名人級の語り手による昔話を聞く会を開催してきましたが、その録音テープを元に再編集したCDを販売しております。 優れた語り手による昔話は聞いて楽しいばかりでなく、民俗学的にも貴重な資料となっております。活字でしか接することが難しくなってきた昔話を、語り伝えられた土地の言葉でたっぷりとご堪能ください。 越後の昔話名人選CDの内容・お申込み方法は、こちらから |
この越後の昔話に関するご感想や類似した昔話をご記憶の方は、「お力添えのメール」で是非お聞かせください。