昔、越後の山奥の寺に、和尚と小僧が住んでいたてや。
ある夏の日に和尚が
「山の中で木の葉ばっか眺(なが)めていたが、今日は、下の村へ行って米のなる木を見てこうと思うが、小憎お前もついてこい」
といいさしたと。小僧に握り飯を持たせて、村へ行く途中にタナがあって、そこのいろいろな鯉(こい)が泳いでいたてが。小僧が
「和尚様、うまそうな鯉が泳いでいるぜ」
と言うと、和尚が
「あれは鯉ではない。カミソリだ」
といわしたと。またちょっと行くと、池があって、魚がいたんだんが、小僧が
「和尚さん、でっかいカミソリが泳いでいるぜ」
といったと。和尚さんは
「子供は黙(だま)ってついてくるものじゃ」
といわしたと。
暫くして、休むことになって、和尚さんは腰の手ぬぐいを取って
「あっ、シャッポがない。小僧や、お前は後から付いてきて知らなかったか」
といわしたと。小僧は
「さっきあそこに落ちていたども、子供は黙って従(つ)いてくるものじゃといわしたんだんが、黙っていました」
というたと。和尚は
「これからは落ちているものはなんでも拾ってこい」
といわしたと。かえって来る途中、道に黒いものがおっていたと。小僧は 「あっ、これは馬の糞(くそ)だ。拾って行こう」
と思って帽子(ぼうし)の中に入れて、拾ってきたと。和尚様が
「小僧、これはなんだ」
といわしたので、
「馬の糞です。和尚さんが落っていたら、なんでも拾えといわしたんだんが、拾ってきました」
とゆうたと。和尚さんは
「その下に小川があるすけ、綺麗(きれい)に洗い流してこい」
といわしたと。小僧は、和尚さんの言う通りに、もったいねえろも、帽子も一緒に流してしもうたと。和尚さんが
「帽子はどうした」
とききなしたんだんが、
「和尚さんが、綺麗に流してこいといわしたんだんが、一緒に綺麗に流してきました」
というたと。和尚さんはなんもいわんねくて
「そうか、そうか」
といわしたと。いきがさけた。
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