とんと昔があったげろ。秋山という村に、ぽんたろうという名前の子があったてや。そこの家の衆は、ばかげになるもんの木(果実の木)を植(う)えていたがだと。そこの家の衆が
「今年は、ばかげにどうろ、なるもんがなったすけ、町へ売りに行ぎてえいんだね」
というたら、ぽんたろうが、
「じゃ、おがいぐぜ」
というたと。
「なあがいってくれるかい、じゃいいげのがんばっか持って、売りにいってもろうこてや」
というて、とっつぁがいいげの柿(かき)や栗(くり)をもいだと。それをまかごにつめて、なるもんばっかも悪いすけというて、お茶(ちゃ)や麩(ふ)を混ぜて四品(よしな)もって出かけたと。家の人も、
「まあまあ、まちごんようにしていってこいや」
と弁当あつけてやったと。ほうして一番初めの家へいぐと
「おはよう。きょうはちゃっくりがきふをもってきたがなじだい」
というたと。その家の衆は、
「これは、奇妙(きみょう)なもんが来たが、なんだろうか」
ととんで出てみたと。
「おめえさん、どっからきゃったい」
ときくんだんが、
「秋山から来たがの」
というたと。ほうして、かごの中見ると、柿や栗がいっぺえあるんだんが、
「こっげのいいがん、家でなっただかい」
と聞くと
「そらぜ」
というんだんが、どうろこうてくれたと。
「おめえさん、ほっげのいい品持っていやるとて、茶は茶で別々(べつべつ)、栗は栗で別々、麩は麩で別々というて売らんけえ、だめらごっつぉ」
というて、きかしたと。ぽんたろうは
「おおきに、ありがとうござんした」
と礼いうて、次の家にいったと。ほうしてこんだ
「おはよう。茶は茶で別々。栗は栗で別々、いらんかい」
というたと。そこの家の衆は
「この人はどうかしているがだ」
と思うたろも、かごの中見たら、あんまいい品物だんだんが、ちいとずつ買うてやったと。
「おめえさん、別々なんていうて売るんじゃねえごっつぉ」
とおせえてくれたと。ぽんたろうは、
「どうもありがとうござんした」
というて、そこの家を出て、三番目の家へ行ったと。こっだ、
「栗や柿もってきたが、なじですい」
といったと。ほうしたら、その家の衆は
「まあ、お前どこでやったい」
と聞いたと。ぽんたろうは、
「秋山だぜ」
というたら
「ほうらかい、ほうらかい」
というて、残ったがんいんな買うてくれたと。
そこの家は、はたごやだったんだんが、
「おめえさん、そろそろ日も暮れたし、泊まっていがんかい」
というてくれたと。ぽんたろうも泊めてもろうことになったと。そこの家の衆は、買うたなるもんの銭どうろ払うてくれて、夕飯にはごっつおして食わしたと。ぽんたろうは、ごっつおがうまいとて、なじょんか喜んだと。女中(じょちゅう)が来て
「おめえさん、風呂(ふろ)に入ってくだせえ」
というたと。ぽんたろうは風呂へ入って
「町てや、ちょうほうなもんがあるのう、せえふろの中へ腰掛(こしか)けがあらあ」
というて、風呂釜(がま)の上へ腰掛けたと。ほうしたとこてんが、熱くて熱くてけつ火傷(やけど)してしもうたと。
「あちち、あちち、これは大へんだ、大へんだ」
と、でっけえ声出したら、女中がとんできて、
「おめえさん、またどうしたい」
と聞くんだんが、
「せえふろの中の腰掛けに腰掛けていたら、いっときのこまに、けつ火傷してしもうた」
というたと、ほうしたら、女中は、親切(しんせつ)に、
「それは腰掛けじゃなくて、風呂釜というもんだがの」
とおせてくれたと。ぽんたろうは、
「そうらかい、そうらかい」
とたまげたと。そこの家の衆が心配して、
「薬つけてやるすけ、早くやすまっしゃい」
というて、火傷したとこに薬つけてくれて、きれいな布団(ふとん)だしてくれたと。
「町てやこんげのきれいな布団かけるんだかい」
というて、ぽんたろうは、朝げまで一眠りだったと。
朝げになって、家の衆が
「ようべなよく寝られたかい」
と聞いたと。ぽんたろうは、
「気持ちがいんだんが、一ねいりしてよかったぜ」
というたと。そのうちに、そこの家の衆が、朝飯になじょんかめえぼたもちしてくれたと。ぽんたろうは、馬鹿(ばか)で正直(しょうじき)だんだすけ
「弁当にもろうて、いぎてんだい」
とたのんだと。ほうしたら、そこの衆は、めえぼたもちを二つ三つ弁当につめてくれたと。ほうしてその衆は、
「銭しっかりたがいて、あこらの峠(とうげ)で腹が減ったら、中飯(ちゅうはん)でも食ったいよ」
といとまごいして、ぽんたろうは、家へむかったと。
峠の途中(とちゅう)まできたら、腹が減ったんだんが、中飯食おうと思うて広げたら、そのぼたもちがみだめ(不明)がめたと。ほうしたんだんが、ぼたもちを谷底(たにそこ)へほげ投げて、家へずんずんと来たと。家へはいって
「かっか、今きたぜ」
と家へ入っていったら、かっかが
「なあ、いんな売って来たかや」
と聞くんだんが
「財布(さいふ)がポンコ、ポンコふくらがっていらあ」
というて、財布はたいてみしたと。ほうして、つあつあ、かっかに町の話をしたり、銭見したりしたんだんが、家中の人が喜んだと。泊めてもろうたどこの話しるやら、そのはたごやでもろうたぼたもちを、峠でぶちゃってきた話しるやらしたと。その話をかっかが聞いて
「なあは、なんともったいねえことしるがだや」
というて、ぽんたろうをつれて、峠までいってみたと。ぽんたろうが、
「ここらあたりら、むこうあたりら」
というんだんが、ぶちゃったあとまでいってみたら、紙にくるまって、ぼたもちがちゃんとあったと。それを拾って、つぁつぁと二人で、一つずつ食ったら、ばかげにうまかったと。ほうして、家中で、ぽんたろうに
「よした、よした」
というて、喜んだと。ほうして
「馬鹿ら、馬鹿らとどこへも出さんでいたら、渡る世間(せけん)に鬼(おに)はなしとよくいうたもんだ」
前菜/温菜//パスタ料理/肉料理
というたと。これでいきがすぽーんとさけた。
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