昔、あったてんがの。秋山(津南町秋山郷(あきやまごう))というろこに、つぁつぁ(父)とぶつというせがれ(息子)と二人暮らしていたと。ある日、かっかぁ(母)の命日がきたんらんが、つぁつぁがせがれのぶつに
「な、お寺へ行って坊さんにお経(きょう)を読んでもろいたいと頼みに行ってきてくれや」
というたと。ほうして
「和尚(おしょう)さんはな、黒いきもんを着ているすけ、すぐわかる」
というたと。ぶつがお寺へ行ってみたら、お寺の屋根の上に黒い鳥(とり)がいたんらんが、
「おらこへ、お経を読みにきてくれや」
と、いうたと。ほうしたら
「カー、カー」
と、いうたと。ぶつはそれをきくと大急ぎで家へ帰ったと。つぁつぁが
「おしょうさん、どういうたや」
と、いうたら
「カー、カーというた」
と、いうんだんが
「ばか、そら、からすじゃねか。じゃこんだおれが行ってくるすけ、おまえは家で、まんまをたいていてくれや」
と、いうて、お寺へ出かけていったと。ぶつは、まんまをたきはじめたと。
だいぶめいたら(すぎたら)かまが、
「ブツ、ブツ、ブツ、ブツ」
というて、まんまがにえてきたと。ぶつは、
「あ、あ、あ、あ」
と、いっくら返事をしても、いつまでも呼(よ)ばってばかりいるんだんが、きもがやけて(おこって)、灰をつかんできてかまの中へ入れてしもうたと。そこへつぁつぁが帰ってきて
「ぶつ、まんまはできたかや」
と、いうたと。ほうしたらぶつは
「いくらおれが返事をしても呼ばってばかりいるんらんが今灰を入れたろこら」
と、いうたと。つぁつぁは、
「じゃ、どうしようもないすけ、二階にこしょうてある甘酒(あまざけ)を下へおろしたいすけ、おまえもてつだいや」
と、いうたと。ぶつは二階の下にいて、つぁつぁが二階から
「ほら、これからおれが甘酒をおろすすけ、けつをしっかりたがけや」
と、いうたと。
「おーし」
と、いって、てめいのけつを、しっかりおさえていたと。つぁつぁは、
「ぶつ、よく持ったかや」
と、いうと
「うん、よく持った」
と、いうたんなんが、つぁつぁはかめをはなしてや。ほうしたら、かめがガシャンと割(わ)れて、甘酒がみんなこぼれてしもうたと。いきが、すぽんときれた。
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