昔あったげろ。法印(ほういん)(山伏)さまが峠にさしかかったら、きつねがきもちよげに寝ていたと。法印さまは、このきつねにわさ(いたずら)してやろうと思って、もっていたほら貝をきつねの耳にあてて「ぼあ」と吹いてたまがしたと。きつねは、たまげてとびあがって、後ろ見い見いどこかへ逃げていってしもうたと。
そのうちに、たちまち日が暮れてしもうてんがのう。法印さまは、これは、大へんだと思うて、早帰らんけやならんと思うたろも、真っ暗になってしもうたと。ちょうどそばへ、山仕事(やましごと)に使う仕事小屋があったんだすけ
「ここに腰(こし)掛けて、夜が白むまで待っていようぜ」
とはいっていったと。よく見たら、小屋の隅(すみ)に、棺桶(かんおけ)みていのがんが、おいてあるだと。
「こらおっかねぜや」
と思っていたら、その棺桶の中から
「法印さま、法印さま」
とよばる声がして、中から手が一本でてきて、また
「法印さま、法印さま」
とよばるがだと。法印さまはおっかなくて、あとじさりして、小屋の外へ出たと、ほうしたら、ごうぎなゆうれいが出て来て、法印さまは、たまげて逃げたと。ほうしると、がんくらおち(崖(がけ)からおちて)して、ずどーんと下の方へおったと。
下じゃ昼間で、人がたんぼの中で、たなぐさとりしていたと。きつねをたまがしたんだんが、きつねがおこって、仕返ししたがんだと。いきが、すぽーんとさけた。
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