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新潟県の民話がいっぱい!「ほら貝の聟(むこ)」

「ほら貝の聟(むこ)」 mukasi


ほら貝の聟(むこ)

苔野島 粕川クラ

 とんと昔があったげろ。じさとばさが住んでいたろも、子供がなかったと。
ばさは、
 「じさじさ、鎮守様(ちんじゅさま)へ二十一日の願掛(がんか)けして、子供授(さず)けてもらおうねか」
というたと。じさまも、
 「そらそら、じゃそうしろう」
というて、次の日から二人して、お宮参(みやまい)りにいったげろ。二十一日目の朝方、ばさが目覚(めさ)まして、じさに、
 「今、神様の夢じらしか、お宮の奥の院の縁(えん)の下に、小さい、ほらっけい(ほら貝)がいるすけ、家へ持っていって、子供らど思うて、大事(だいじ)に育てろといわれたぜや」
というたと、じさは、
 「じゃ、早いってもらってこう」
というて、二人でお参りして、縁の下見たら、ほらの貝がひとつめっかつた。ほうして家へつれて来て、藁(わら)のっぐらつくって、子供らと思うて、毎日毎日まんま食わしていたと。
 ある時ばさが、
 「お前が子供だったら、町へ使いに出して、苧(お)でも買うて来て、もらうのだろも、それもだめらしなあ」
というたと。ほうしたら、ほらの貝が、
 「おが行って買うて来うかい」
というたと。ばさまは、たまげたろも、
 「こうてこられるようだけや、そうしょか」
というて、銭をふろしきに包んで、かずかして(背負わせて)やったと。ほらの貝は、ずるんずるんとそれをひきずって、町へ出ていったと。じさとばさは、どうだろうかなあと思って、心配していたと。そのうちに、むこうの方から、ほらの貝がくるのがみえて、
 「今きたぜ」
というて、苧かずいてきたんだんが二人は、なじょんかたまげたと。ほうして、
 「よした、よした」
とほめたと。
 それからまたちょっとめてから、ほらの貝が、
 「おら、こんだ嫁もらうてくるすけ、着物(きもん)とはおりと、はかまを何尺何寸のたけにこしょうて、そんに、風呂(ふろ)たいてまっていてくんねか」
というたと。ばさは、こんげのほらの貝が着られるか、着らんねかわからんうも、いうたとおり、こしらっておこかというて、着物こしらっておいたと。
 ほらの貝は、町へいって、金沢(かなざ)の旦那(だんな)さま(小国町金沢の旧家、山口家)のような家の玄関にたって、
 「ごめん下さい。ごめん下さい」
というと、中からおんなご(下女)が出てきて、あたりみるろも、だれもいないふうらん(いないらしい)だんが、家の中へもどろうとすると、また、
ほら貝の聟(むこ)  「ごめん下さい」
というんだが、よく見てみたら、ほらの貝がいたと。
 「ほらの貝おまえかい、ごめん下さいというたのは」
とおんなごがきくと、ほらの貝は
 「はい、そうです」
と答え
 「まあ、口をきくほらの貝がきている」
というて、おんなごは、奥の方へいったと。旦那さまが、
 「もってきてみれ」
というんだんが、家へもってはいると、みんなが珍らしがって家中のものが集まってきたと。奥からお嬢(じょう)さんも出てきて、
 「まあ、ほらの貝が口をきくとね。どれ、かわいいこと、わたしの手の上へのせてみせて」
というたと。おんなごが、お嬢さんの手の上に、ほらの貝をのせてやると、ほらの貝が、お嬢さんのほっぺたにぴょんとくっついたと。お嬢さんが
 「いたい、いたい」
と大さわぎになってしもうたと。
 「だれかとってくれ」
というろも、だれもとってくれらんねえで、困っていたと。おっかさまが、
 「まあ、ほらの貝、おまえの好きながんやるが、離れてくんねか」
と頼んだと。ほうしたら、ほらの貝が、
 「このお嬢さんを、おが嫁にしてくれれや離れる」
というたと。
 「こらあ困ったことになった」
と旦那さまとおっかさまも思ったろも、どうすることもできねんだんが、
 「まあ、しかたがねえこてや」
というたら、ほらの貝がぼとんと落ったと。ほらの貝は、
 「じゃ、嫁にもらっていきます」
というだんが、お嬢さまの家じゃ嫁入(よめい)り仕度(したく)をして、真っ赤のきもんきせて、お嬢さまをかごにのせ、ほらの貝もかごにのせたと。おとっつぁまとおっかさまも送って、荷かづきが大勢(おおぜ)、みんな長い行列つくって、ほらの貝の家へ来たと。
 「じさ、ばあ、いまきたぜ」
というて、ほらの貝がはいってゆくと、じさ、ばさは、とんででてみて、
 「まあ、こればっかしゃ、こればっかしゃ(これは、これは)」
と嬉(うれ)しくて家中とんであいたと。
 いんな(みんな)から帰ってもらったら、ほらの貝が、
 「おら、ふろへはいってくるすけ、おがふろにはいったら、ふたしてくんねか」
とたのんだど、ばさが、ふろのふたをしると、中でことことことことどぼんと音がして、
 「ふろのふたあけて下さい」
というので、ふたあけてみたら、きれいで、背の高い美男子(びだんし)があがってきて、
 「さあ、着物きして下さい」
というたと。神のもうし子だんだんが、用意していたはおり、はかまも寸法(すんぽう)がぴたっとあったと。それを着て、みなさんの前へあいさつに出たら、みんながなじょんかたまげたと。新郎(しんろう)、新婦(しんぷ)を並べて、お祝いの酒もりして、みんながよろこんだと。二人は、親孝行(おやこうこう)して、たのしく一生暮らしたと。いきが、ぽーんときれた。


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