とんとむかしがあったてや。金沢(かなざ)(小国町金沢の豪家山口家)みてようのごうぎな旦那様(だんなさま)があったてや。ある年の「そうたいぎょう」(収穫祝い)の晩に村中の子供をいんな(みんな)よばっていっぺいごっつぉ(ごちそう)食わしたてんがの。夕飯がおいると旦那様は、でっけえへんなか(いろり)のまありに子供を集めて、どんどんどんどん火を焚(た)いてあたらしたてや。ほうして、
「ねらねら、この世の中でいっちおっかねいがんは何だや」
そういうて子供しょに聞かしったてんがね。子供しょは思い思いに、
「おら、おおいん(狼(おおかみ))がいっちおっかね」
「おら、くまがいっちおっかね」
と、一人ひとりが自分で一番おっかねいもんをさべり(はなし)出したてんがの。ちょうどそんどき、でっけいおおいんが一匹旦那様の庭へ忍びこんでいて、この話聞いていたてんがね。
「こらあおもしい、いったいこの世の中でいっちおっかながられているがんは……やっぱりおれ様らろうな」
そう思うてじっと聞いていたてんがね。家の中じゃ子供しょが、
「おらおおいんがいっちおっかね」
「おれもおおいんがいっちおっかね」
と、ガヤガヤ話しているんなんが、外で聞いているおおいんは、
「そうれみろ。この世の中でいっちおっかながられているがんは、やっぱりおれ様らな」
そう思うてニヤニヤ笑うていたてや。なるほど、中にはくまがおっかねいの、きつねがおっかねいのという子供もいたろも、大方の子供はおおいんがいっちおっかねいのていうたてんがね。
それまで
「そうかそうか」
とニコニコしながらいんなの言うがん聞いていた旦那様が、
「おばおば、なあ(おまえ)さっきなから黙っていて何とも言わねいが、なあは一体何がいっちおっかねいがだや」
そういうて隅(すみ)っこにちょこんと座(すわ)っていた女の子に聞いたてんがね。ほうしっとその女の子は、
「おら、おおいんもくまもおっかんねいろも、ふるやのもりやがいっちおっかね」
そういうたてんがの。ほうしっと旦那様が、
「ほうかいほうかい、なあはふるやのもりやを知っていたかや、感心(かんしん)だ感心だ」
と、なじょんがほめたてや。
さあ、それを外で聞いていたおおいんがたまげた。
「この世の中でいっちおっかながられているがんは、このおれ様らと思うていたら、とんでもねい。ふるやのもりやなんていうごうぎながんがいたとは知らんかった。ぐずぐずしていてふるやのもりやにつかめられてはおごっだ。早く逃げよう」
そう思うてコソコソと旦那様の庭から逃げ出して、道へ出るとクヮランクヮランと山へ向うてとび出したてや。
村のはずれに「いち」という家があって、そこのじさまがそんどきちょうど小便(しょうべん)こきへ起きて外へ出てションション、ションションと小便こいていたてや。ほうしっと向こうの方から何だやらクヮランクヮランととんで来るがんがあるんなんが、
「あっ、こらおおごっだ。旦那様の馬が逃(に)げて来た。こら一つつかめねけやならね」
そう思うて、とんで来たおおいんの背中(せなか)へ、ピョーンととびのって、くびんたまへしっかりしがみついたてや。たまげたがんはおおいんだ。
「ウワー、おおごっだ。ふるやのもりやがおれにとびついた」
そう思うたんなんが何とかしてふり落とそうとしてピョンピョンピョンピョンあっちへはね、こっちはねして体いさぶった(揺する)てや。いちのじさまあ、
「落とさってたまるんだな」
てがっで、しかもしっかり首んたましめつけたてや。おおいんは、
「こらあ、いよいよふるやのもりやに殺される」
てがっで死ん物ぐるいでとんでいったてや。
いちのじさま途中なかれ気がついたてや
「おかしい、馬にしちゃパカパカ音がしねし、たてがみがねい」
そう思うたんなんが、しっかりつかまったまんまよーく見たら
「さあおおごっだ、まら(馬だ)と思うたらこらぁおおいんだ。とんでもねいがんに乗ってしもうた。どうしたらいいろ」
こっだ(こんど)いちのじさまがおっかながりだした。ちょうど道が山へかかったろこへ炭焼(すみや)きの穴があったんなんが、いちのじさピョーンとおおいんの背中からとびおりて、その穴ん中へ逃げこんだてや。おおいんはよろこんで、
「ああよかった。ふりやのもりやをやっと背中から落とした。だあろも(だけど)このまんまにあしておかんね」
てがっで、山ん中へ逃げて来て、オーン、オーンと吠(ほ)えて山中のけだもんを呼び集めたてんがの。
今頃なんだろうといんなが集まって来たんなんが、おおいんは、
「いんな集まったか。今晩おれはふるやのもりやてがんに首んたまへとびつかれてもうちっとれ殺されるろこらった。やっとふり落したろもそいつあ炭焼穴(すみやきあな)ん中へ逃げこんだ。どっげなやつらか見とどけねけやならん、誰か行って見て来い」
そう言うたてんがの。いんながガヤガヤガヤガヤ騒(さわ)ぎ出したろも誰も行くがんがねい。
「いたち、なあちょろちょろしてはしっこい(敏捷(びんしょう))すけなあいってこい」
「いやいやとてもとても、おれなんかちんこくて、もうてなし(いくじなし)れとても駄目(だめ)ら」
「さる、なあ頭がいいとていつも威張(いば)っているすけ、なあ行って来い」
「いやあとてもとても。おら木の上らけやええろも、穴んなかあ苦手(にがて)、だめだめ」
誰でもおれが行ぐてがんがなかったと。
そこへうさぎがひょこんひょこんと遅(おく)れて来たと。
「あ、うさぎ、なあ遅なって来てけしからんすけ、なあがふるやのもりやを見届けて来い」
ていうことんなって、よくわけの分からんうちにうさぎがやらされることになったと。うさぎは仕方ねえんなんがひょこんひょこんと出かけたと。
さあ、いちのじさまあどうやら穴ん中へ逃げこんだろも、いつおおいんが飛び込んで来るやらわからねえんなんが、もし入って来たらどうしょうかと思うて穴の奥へさずんで(息を殺して)いたてや。ほうしると何かがぴょこんぴょこんと入って来たんなんが、さてはおおいんが来たかと、よーく見たらうさぎらてんがね。うさぎはそとからはいったばっかで中のようすがわからねんだんが、じさまあ、ちょこんとうさぎのしっぽつかめたと。その頃のうさぎはしっぽが長くて耳が短かったがだと。うさぎあたまげて、
「助けてくれー、ふるやのもりやにつかめられたー」
と大声出したと、さあ外でどうなるやらとおっかなおっかな待っていたけだものたちは、
「さあおおごとら、うさぎがふるやのもりやにつかめられた。助けねけやならねい」
てがっで、うさぎの耳たがいて、
「よいしょ、よいしょ」
と引(ひ)っ張(ぱ)ったてや。いちのじさまあ、
「逃(に)がしてなるんだな」
と死ん力出して引っ張ったんなんが、うさぎの耳はだんだん長くなり、しっぽはとうとうプツンと切れてしもたてんがの。
それからうさぎの耳あ長なったし、しっぽあ短かなったがだと。ほうしてうさぎはあんまり痛いなんが
「おいおい、おいおい」
と泣いたんなんが、目がまっかんなったがだと。ふるやのもりやてやな、雨が降るとバシャバシャバシャバシャ雨がもるような貧乏家(びんぼうや)のことを言うたがだと。これでいきがスポーンとさけた。
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