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第3回『語り尽し越後の昔話』では、長岡市に県内各地の錚々たる語り部六人衆が登場しました。

ルポ 越後の昔話・語り尽しreport

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ルポ 越後の昔話・語り尽し 大野 富衛

 越後の昔話、語り尽しの会(主催瞽女(ごぜ)唄ネットワーク)
 平成八年九月二十三日開催、於アトリウム長岡(弓町)
 うららかな秋の陽がまばゆいほど八十畳の和室の障子にあたっている。さあここに県内各地の錚々たる語り部六人衆の登場と相なった。耳をそば立てて聴いている人々、ひと語り終るときまったように大きく息を洩らすのです。「これはまさしく越後の古典だね」そんな声さえしてきたようです。
 名人語り部衆にスポットを当ててみよう。(敬称略)

 山崎正治(刈羽・小国町)
「人年貢をとるムジナ」毎年若い娘を人年貢にとるという妖怪(実はムジナ)を、旅の六部(ろくぶ)と犬が美事に退治する話。
「ぶつ」脳が発育を欠いたぶつとよばれる少年と、その父親の奇妙きてれつなユーモア語り。
 山崎さんはこの道の超ベテラン、かつて教職にあって児童に語りきかせて強い印象を与えたという。ふるさとの風物を彷彿させる美事な語りは、つい知らず人を昔話の世界に魅き入れる。
「ペエソタラー」という名の犬が登場するのは珍らしい。合いの手に「サース」が入る。

 南雲キクノ(中魚沼・中里村)
「殿さまと屁っこき嫁」屁っこき癖の醜い大女が、山の道で殿さまの一行に出会って歌を詠んで沢山の褒美を貰うと、それを嫉妬した鼻高女が真似て歌を詠むが、結果は散々で打首になりそうなのを醜女が改心させるという美談。
 南雲さんの語りは明朗活達でとにかく面白い。切れのよい口調とリズム、鮮やかな情景描写は圧巻で芸域と言い得よう。結び言葉の「いっちょうさっくり」は妻有郷独特。

 高橋ハナ(三島郡・越路町)
「馬を呑んだジサ」畑でジサが大きなアクビをしたら、きれいな鳥がおなかに入ってしまった。さあ大変、それから始まる大騒動。おとぎの国をみるような楽しい話。
「ボタと蛙」欲張りの姑バサの留守に、嫁がバサが隠したボタモチを皆食うてしまうて、替わりに蛙を入れておいた。バサは「ボタモチが逃げる、アンコが落ちる」と大あわてする。
「ムジナととっつぁ」ムジナは生者にも死者にもなって人を化かす。それを見抜いて退治したとっつぁの話。
 この人は表情豊かに生き生きと語り、年季の深さを覗わせる。幼時に母が苧をつむぎながら語ってくれたという。

 富川蝶子(見附市)
「もくぞう長者」ふだん目立たない下男のもくぞうが、実は大した才智者でついに富農の婿となって一家繁栄のめでたし。
「煮豆のおかわり」ひなびた寺の住職と小僧がうまく煮えた煮豆をめぐって、丁丁発止と頓智くらべをやる話。
この人は初登場だが、どことなく華(はな)やぎをみる語りは並みの技倆ではない。「いっちょうさかえ申した」が結び言葉。

 樋口倶吉(ともよし)(中魚沼・中里村)
「鉄砲ぶち」猟師が山に入って日が暮れて、怪しげな山家に泊めて貰うとバサがいる。やっと退治して、見たら妖怪は狡(こ)のふいた大ムジナであった。
「だいろどん」子もたずのジサは山でだいろを拾う。このだいろは実は立派な若者の化身だったという楽しい語り。
この人の語りは元気横溢、迫力満点の男語り。しかもふるさとの山河に寄せる熱き思いが聴き手に伝わってくる。

 林 ヤス(栃尾市)
「屁(へ)っこき嫁」嫁が大きな屁をしたら姑バサが吹き飛ばされた、さあ大変だ。ところがそんな大きな屁っこきにも大きな功徳があったのだという語り。
「鳥の巣」鳥も二羽で夫婦、卵を産み育てあげると子は飛び立ってゆき、あとは空巣(からす)になるのだと、智恵者の方丈さまは遊び人に諭したという語り。
 林さんは水沢謙一さんに触発されて次々と昔話を思い出した。ヤスさんの語りは修飾の混らない素朴な語り、他郷の語りの影響を入れない純粋性がある貴重なもの。八十六歳になられたが、先々もっと語って欲しい人である。

 ―かくて六人衆の語りが済んだ。司会が「質問がないか」と言ったら、あるある続々と。たとえば、 「ムジナってどんな動物ですか」「六部(ろくぶ)ってどんな人ですか」「だいろって何のことですね」ここまではなんてこともなかったけれど「人間のトコリってどこのこと」と妻有の方言を尋ねられて「内ふところ、つまり胸のお乳のあたりよ」だと。アハハ、アハハ広間は爆笑の渦となりました。

 現代人はいつから「語る文化」と「聴く文化」を失ったのであろうか。更に言えば、これからの世を背負うべき子らに、おとなたちはどんな心の豊穣を与え得るのだろうか。言葉のもつ本来の力を信じながら、同時に語る喜びと聴く喜びを復活せねばならない。そんな思いでこの催しも三年目となりました。
 今年も秋に開催します。足をお運び下さらんことを…。


Penac No.22 (P.157-158)
編集 長岡ペンクラブ編集委員会
発行 長岡ペンクラブ(長岡商工会議所内)
1997年9月20日発行
\2500
※なお、転載にあたっては、長岡ペンクラブ様から許可を得ております。

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