あったてんがの。昔あるどこへ正直のじいさとばあさがあったっての。じいさは毎日毎日山へ木を切りに行ったっての。ばあさは毎日じいさの昼飯をこしょうて持たしてやったってんがの。ある日のこと、じいさはいつものように昼になったんだんが、ばあさの持たせてくいたにぎり飯を食おうと思ってひろげたっての。
そうしたら、にぎり飯が一つころころと転って行くってんがの。じいさがぼっかけて行ったら山のはじっこの穴の中へすとんと落ったっての。そうしたら何だかきれげの声で歌が聞こえるってんがの。じいさは、「はあて、いい声で音楽みとうのが聞こえるな。もう一つのにぎりめしも落してみようや。」と思うて、てまえが食わんで落してみたら、やっぱりいい声で歌が聞こえてきたと思ったら、じいさの足もとが崩いて穴の中へすとんと落ったってんがの。そうしたら、ねずみがいっぺいこと出てきて
「じいさ、じいさ。こっちへ来てくんなさい。今、にぎりめしもろうたお礼においらがごっつおをしるすけ。」
と、言うて案内していぐってんがの。じいさは、ねずみについて行ったらばっか広いどこへ行ってねずみが踊る舞台があり、ごっつおを並べたテーブルがあったりして、ねずみの親方みとうのが
「じいさま、じいさま。踊りを見たりごっつおを食ったりしてくんなさい。」
と、言うってんがの。じいさは、踊りを見たりごっつお食ったりして帰ると言うたら、ねずみの親方みとのが
「そうせば土産持って帰ってもらいたいが、小んこい箱がいいか、でっこい箱がいいかの。」
と、聞くんだんがじいさは
「おら年寄りだすけでっこい箱は重たいろんが、小んこい箱をくらっしゃい。」
と、言うて小んこい箱をもろて帰ってきたっての。
「ばあさ、ばあさ。今きたど。」
と、言うたらばあさが
「いいさまこんげ遅うまでどこへ行ってきたの。あいやぁ、着物がべとだらけだねかの。」
と、言うんだんが、じいさは
「ばあさ、ばあさ、今日はない、これこれこういう訳で土産にこの箱をもろてきたいや。」
と、言うて二人して箱を開けてみたっての。まあ、たまげたことに銭がいっぺこと入っているんってんがの。二人は「まあまあ、いいかったの。」なんて喜んでいたと。丁度そこへ隣りの欲張りのばあさがボッコレヤカンをガラシチガラシチと引っぱって火種をもらいに来たってんがの。そうして、その銭を見たっての。
「おうこ、ここのしょは、どんげしてこんげの銭取り金取らしたえ。」
と、聞くんだんが、じいさが山へ行ってこれこれこうだっけと聞かせたってんがの。隣りのばあさは、
「そうかえ。そらあいいかったのし。おいらこのじいさも明日は山へやろうや。毎日へんぐりあぶりばっかしているすけ。」
と、言うて帰ったってんがの。そうして、にぎり飯を持たせて山へやったとの。じいさは仕事をしないでぶらぶらしてたっけが、山のはじっこに穴を見つけて、にぎり飯を半分だけ落してみたっての。そうしたら、やっぱりきれいな音楽が聞こえてきたってんがの。じいさは、にぎり飯半分でも歌が聞こえてきたんだが、あとはみんあ自分で食うてしもうて、その穴へとび込んだっての。そうしたらやっぱりねずみがいっぺこと出てきて
「じいさ、じいさ、こっちへ来てくらっしゃい。」
と、言うて広いどこへ連れて行ったてんがの。じいさはどんげんごっつおが出るかと思って待っていたら、ほんの小(ちん)こい皿にちっとばかごっつおを出してくいて、ねずみどもはそこらで勝手に踊ったりはねたりしているがだっての。じいさはごうやいて
「おらあへぇ帰るすけ土産よこせ。」
と、言うたどもねずみどもは知らんふりして何も持ってこないってんがの。じいさは「ようし、ここらでねずみをおっかながらせてくいろや。」と思うてでっこい声で
「ニャゴーニャーン。」
と、猫の鳴きまねをしたっての。そうしたら今まで明るかった広場がまっくらになって天井から砂だのベトだの石ころがドサンドサンと落ってきてじいさまはうまってしもうたっての。
じいさ、まっくれいベトの中をやっとこせっとこ出ようとしたら、あんまりじいさが帰ってこねいんだんが、ばあさが外へ出て立っていたてまえの家のお庭だっけっての。ぼこんぼこんとベトがふくれるんだんがばあさがふんずけて
「おらこのバカじさ、たまに山へやればいくら待っていても帰ってこないが。」なんか言うてると又ベトがふくれるがだっての。ばあさまたそこをふんづけて
「いくらふんづけても又ふくれるが、もくらもちがいやがるろかな。」
なんて言うて横づち持ってきて
「もぐらもちのばか奴。」なんか言うてたたくがだっての。じいさが出ようとすればばあさがたたく。しまいにじいさはでっこい声で
「ばあさばあさ俺だいや。」
と、言うてやっと出てきたらへぇ頭がそこら中たんこぶだらけだってんがの。いちごポーンとさけた。
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